↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第5章「探偵が犯人になる夜」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/30

第24話 欠けた王冠

破れた蝋の筒は、完全には直せなかった。


 専門職人が溝のつながる部分だけを固定すると、断片的な声が出た。


 老人の短い悲鳴。机を倒す音。


 その前に、低い声。


『原本は、どこだ』


 レインはヴォスの声に聞こえた。だが、職人は首を振った。


「この状態で、声の主は特定できません」


 レインはそう記録した。


 それでも、悲鳴の録音を時計へ仕込んだ可能性は、強くなった。


 オルドは、ハルの原本の出納簿を持ってきた。


 七年前の判決書は、三年前に一度、長官室へ貸し出されている。返却は二年前。そのとき戻った原本の封蝋には、王冠の右端の欠けがあった。


 ハルが示した写しと同じだ。


 レインは古い印章の修理台帳を調べた。


 修理業者は、二人を客の応接間ではなく、作業台へ案内した。


「印章の傷にも、名前があるんですか」


 レインが尋ねると、職人は拡大鏡を差し出した。


「割れた形が全部違うだけだ。名前を付ければ、見分けやすくなる」


 台帳には、欠けた部分の小さな図が添えてあった。


 王冠の右端。斜めに欠けた刃。三つの短い割れ筋。


 印章を落とした日には、長官の使者が急いで修理を頼みに来たという。修理では形が戻らず、新しい印章を作ることになった。


「偽物を作るとき、使う印章まで古くできなかった」


 ミラが言った。


「ただ、封を押し直しただけかもしれません。綴じ目と、発行の手順も確かめましょう」


 レインは、自分へも言い聞かせた。


 待つ時間は、ハルにはもうない。


 けれど、その死を急ぐ理由にして、別の誤りを作ってはいけない。


 職人は写しを取る許可を出し、比較用に、同じ時期の公文書を三通持ってきた。


 それぞれの王冠に、同じ欠けがあった。


 ガルドの印章が欠けたのは、二年前。落として壊し、代わりの印章ができるまで、欠けたまま使った。


「七年前に押されたはずの封印が、二年前の傷を持っている」


 ミラが台帳を押さえる。


「返却時に封をし直しただけ、という説明は?」


「表の保管封なら、あり得ます。でもこれは、判決文と検査添付の綴じ目に押した発行封です。返却時に押し直したという記録もありません」


 ハルが疑ったのは、原本の差し替えだった。


 さらに、南救貧院の検査控えには、別の発行番号がある。今の判決書に添えられた番号とは違っていた。


 最初の検査結果を、後から都合のよいものへ変えた。


 ハルはその証拠を、取り出そうとして殺された。


 窓へ、小石が当たった。


 ノクスが屋根にいる。


「長官の印章を、頂いてきたら?」


「修理業者の台帳と、当時の公文書の封印で比較できます。盗む必要はありません」


「そうか。今日は暇だね」


 怪盗が腰を下ろした。


 レインは首を振った。


「セラさんが、危ない」


 ノクスの笑顔が消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。