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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第5章「探偵が犯人になる夜」

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第23話 同じ言葉、同じ傷

レインは自由にはならなかった。


 捜査室の客間に泊まり、外出にはオルドが付き添う。逃げない約束は、紙へ署名した。


 それでも、取調室で何もできずに待つよりよかった。


 ハルの録音筒が保管された箱を、ミラが持ってきた。


 音声時計に入っていた筒は、ヴォスが現場で割っていた。


「血で汚染され、証拠に不向きだと説明している」


「血が付いた証拠を、割る理由にはなりません」


「だから破片も回収した」


 レインは、別の筒の目録を見た。


 腰の体操。食事の予定。新人への指示。


 ミラが最後の筒を回す。


『書類を……入口の箱へ。少し、待ちなさい。床を磨いているので、こちらへ来ないように』


 レインは顔を上げた。


「この声です」


 ミラが筒を止めようとした。


「最後まで、聞かせてください」


 レインが言った。


 筒の中の老人は、机の掃除について話し、次に書類の置き方を説明した。いつもの、少し長すぎる注意だった。


 語尾が柔らかくなる。


『分からなければ、呼びなさい』


 レインは顔を伏せた。


 呼べば返事があると思った。九時三分の声も、呼べば助けられると思った。


 どちらも、もう生きていない人の声だった。


 ミラは筒を箱へ戻し、何も言わずに待った。


 レインが息を整えるまで。


「声の中身が同じ、だけでは足りません」


 彼はようやく言った。


「ハルさんなら、同じことをまた言うかもしれない。音の傷を比べたい。途中の、変な子音も」


「専門の職人に頼もう」


「僕の記憶だけでは、決めないでください」


 ミラは頷いた。


 自分を助ける証拠ほど、急いで信じたくなる。


 その気持ちの扱い方を、今は彼女が隣で見ていてくれた。


 言葉の途切れ方も、息の引っかかりも同じ。


 後半だけ、現場では聞こえなかった。


 筒の原型には目立つ傷があった。その傷を越えるたび、「少し」の子音が小さく二重になる。レインが昨夜聞いた声にも、その不自然な重なりがあった。


 複製機で、同じ音を別の筒へ写したのだ。


「ハルさんは、僕が入ったときには亡くなっていたかもしれない」


「悲鳴も、録音なら」


 ミラは机へ時刻表を置いた。


 最後にハルと話した人物は、八時四十分の書類便。


 ケスは配達人の顔をよく見ていない。灰色の帽子、外套、革手袋。署名は配達会社の略号だけ。受取簿の時刻は八時四十分だった。


 会社は、その便を出していなかった。


 ヴォスが正式に裁判所へ姿を見せたのは、八時五十分。九時には監督室へ入っている。


 九時三分の悲鳴を死亡時刻とすれば、彼にはアリバイがある。


 死亡がそれより前なら、話は変わる。


 ハルの体を調べた薬師も、出血の状態だけでは死亡を九時三分に限定できないと確認した。


 レインは時計の図を描いた。


 声がした。

 だから生きていた。


 その間へ、一本の線を引く。


「ブラムさんと、同じ間違いをしていました」

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