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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第1章「鍵を握った死者」

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第2話 犯人になりたい少年

テオは十七歳だった。


 面会室に入ってきた少年は、姉を見た瞬間に口を結んだ。その右手には、仕立て針の細かな傷が並んでいた。


「僕がやった」


「どうやって?」とレインは聞いた。


「魔法で」


「何の魔法?」


「人を……殺す魔法」


 ミラが息を吸う。レインは先に机へ紙を置いた。


 ミラは弟の襟元を見ていた。


 少年の服はきちんと縫い直されている。袖口の布は古いが、破れたままの場所はない。自分の衣服まで、仕事場から余った糸で直しているのだろう。


「昨日の夕飯は何を食べた?」


 レインの問いに、テオは面食らった。


「……芋の煮たの」


「誰と?」


「工房の人と」


「何時に?」


「鐘のあと。八時半くらい」


 レインは書いた。


 ヴォスの用意した自白では、テオは犯行後、八時すぎまで屋敷の近くで様子をうかがったとされている。工房までの道は、少なくとも半刻かかる。


 まだ証言を確かめていない。それでも、工房の仲間へ聞くべきことはできた。


「何で夕飯なんか」


「覚えていることから話してほしい。事件の名前を、無理に付けなくていいから」


 テオは机の紙へ目を落とした。


 捕まってから、最初に聞かれたのは『認めるか』だった。こんなことを、誰も聞かなかった。


「君の登録は、糸を硬くする補修魔法だ。アルマンさんの襟を直した?」


 テオの目が紙へ落ちた。


「ほつれていた。届けたときに頼まれた」


「その接触で、襟に君の魔力が残る」


「でも、僕が犯人なんだ」


 声は強くなった。強すぎた。


 罪を逃れたい人間の声ではない。罪から逃がしてもらうことを恐れている。


 レインは面会簿を見た。逮捕後、テオと単独で話したのはヴォスだけだった。


「誰を守るように言われた?」


「誰も」


 少年の視線が、姉の徽章へ走る。


 ミラが椅子を引いた。


「テオ。私のことなら、勝手に守らないで」


 その声だけが、捜査官ではなく姉の声だった。


 少年は唇を噛んだまま、何も言わなかった。


 面会後、二人は裁判所の薬師に会った。アルマンの口元には、夜眠草を濃縮した薬液の痕跡があった。治療に使う薄いものと違い、濃縮液は猛毒だ。飲んでから症状が出るまで、通常二十五分から四十分。


「八時に封鎖。八時十五分に死亡なら、封鎖の前に飲んだ可能性がある」


 ミラが言う。


「毒の混入時刻を、密室の成立時刻と取り違えているんです」


 レインは茶器の検査表をめくった。被害者の赤い杯からだけ毒が出ている。秘書の白い杯は陰性。茶壺も陰性。


 料理人は、廊下で待っていた。


「茶は七時四十分に。いつも通り、旦那様には赤、セラ様には白です」


「砂糖は?」


「旦那様は蜂蜜。セラ様は何も入れません」


「蜂蜜は、料理人が?」


「卓に瓶を置くだけです。旦那様は蓋を開けるのが苦手でして。右手を痛めてから、セラ様が」


 白い手袋の、親指の染み。


 レインは思い出した。


 そして、面会室のテオは左手で鉛筆を持っていた。


「毒を入れた人と、犯人になりたい人が、同じとは限りません」


 ミラは返事をしなかった。


 その代わり、弟の自白調書を、最初の一行から読み直し始めた。

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