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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第4章「盗まれた判決」

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第19話 片手で足りること

王都へ戻る途中、橋の上で車輪が外れた。


 ただの事故ではなかった。車軸の留め金が抜かれ、前方には荷車が道を塞いでいた。


 四人の男が近づく。


「書類だけ置いていけ」


 ミラが剣を抜いた。レインは鞄を抱えた。


 馬車の扉が反対側から開く。


 狐の仮面が覗いた。


「相席、いいかな」


「断ったら?」


「川側の席は、あまりお勧めしない」


 ノクスはレインの鞄ではなく、その体を引いた。橋の下に、荷揚げ用の吊り籠が待っている。


 ミラが一人を打ち倒し、二人目の剣を弾く。その間に怪盗が縄を外す。籠は川岸へ滑り落ちた。


 レインは悲鳴を上げた。


「毎回、下か上へ運ぶ必要がありますか!」


「横は敵が多い」


 ミラが籠へ飛び乗った。


 川岸には、旅芸人の荷馬車があった。ノクスは御者に銀貨を渡し、三人は干し草の上へ隠れた。


 彼の左手袋が裂けていた。


 小指と薬指がない。残った指にも、火傷の痕。


 ミラが傷へ布を巻く。


「痛いなら、そう言って」


「少し」


「少しの顔じゃない」


「仮面で分かる?」


「肩で分かる」


 ノクスは笑って、すぐ息を止めた。


 レインが水袋を差し出す。男は右手で受け取り、左手を膝へ置いた。手品をしていた手ではなく、何かを持ちこたえてきた手に見えた。


「三本しかないと、不便ですか」


 レインは聞いてから、言葉を選べなかったと思った。


 ノクスは気にした様子もなく、右の指を五本開いた。


「足りないほうより、残っているほうを鍛えた。鍵は開く。縄も結べる。林檎の皮は下手だ」


「テオと同じね」


 ミラが言った。


「共通点が一つできた」


「二つある。余計な心配を人にかける」


「それは個性で、長所だ」


「直すところよ」


 干し草の中で、レインが笑った。


 笑える場所にいるのが、ついさっきまでの橋を思うと不思議だった。


「ルカ・ヴェイル」


 怪盗は答えなかった。


「父の患者を運んだのね」


「その仕事は、した」


「ありがとう」


 ノクスは顔を背けた。


「礼は早い。一人、戻れなかった」


 施療院にいた別の少年。三人を運んだあと、火の中へ戻って捜した。煙の中で見つけたが、梁が落ちた。


「自分だけ、出てきた」


 レインは、怪盗の残った三本の指を見た。


「三人を運んだことも、消えません」


「都合のいい計算だ」


「両方、記録します」


 荷馬車が揺れた。


 ノクスは仮面を少し浮かせ、笑った。笑顔の端は、震えていた。


「手が片方でも、盗みはできる。なのに、一人の手を引けなかった」


 ミラは包帯を結んだ。


「今日は、二人の手を引いた」


 怪盗は、今度こそ何も言わなかった。

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