↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第4章「盗まれた判決」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/30

第18話 生きていた子供

エリは十九歳になっていた。


 葡萄の籠を運ぶ右手に、親指がない。


 ミラが名を呼ぶと、彼は籠を地面へ置いた。


「先生の娘さん?」


 ミラは頷いた。


 エリは両膝へ手を付いて、長く息を吐いた。


「死んだことになっていると、後から知りました」


「なぜ戻らなかったの」


「戻って、先生が犯人じゃないと言いました。警備の人に、お前の保護先を取り消すぞって。僕はまだ十二で」


 ミラの顔が、怒りから別のものへ変わった。


「ごめんなさい。責めるつもりじゃなかった」


「いえ。ずっと、誰かに責めてほしかった」


 レインは面会室のテオを思い出した。


 子供を黙らせるには、難しい魔法は要らない。


 寝る場所を、取り上げると言えばいい。


 トマは隣町の製粉所で働いていた。リナは、引き取られた農家の学校へ通っていた。


 三人の保護記録には、救急便の受領証が付いている。火災当日の六時二十五分に北門を通過。門番の帳簿にも、患者三名と記されていた。


 公式の火災時刻より十五分前だった。


 北門の帳簿は、その日のほかの通行人も含めて保存されていた。葡萄農家の納税荷車、染物屋の使い、夕刻の郵便便。


 時刻は、門の大時計と、定時に鳴る市の鐘で合わせている。火災の日にも、六時の調整記録があった。


 鏡の中の時計についても、院内の当直帳に、同じ日の正午に時刻を合わせたと記されていた。


 古い時計が一台止まっていた、という説明では足りなくなる。


「七年前、僕らはあの門を通った」


 エリは、レインの書く六時二十五分を見た。


「途中でルカさんが戻った。もう一人が病院にいるって。あとは救急便の助手が運んだ。北の保護所で、名前を変えてもいいと言われたんです」


「誰に?」


「担当の人です。王都へ戻らないほうがいい、戻れば医師の共犯にされるかもしれないって」


 脅された三人は、別々の保護先へ移った。


 ルカにも、その後の行き先は知らされなかった。


 生きていたことを証明するために、昔の名前を取り戻す必要があった。


 レインは、新しい名前も消さなかった。


 逃げた先で続いた七年間まで、嘘にしてはいけない。


「子供が火事の前に逃げていれば、後で死体が病院から見つかるのはおかしい」


 レインは数字を並べた。


「だから火災の時刻を、三十分遅らせた。北へ行った三人は、事件とは無関係の患者として切り離された」


「誰が時刻を決めたの?」


「最初の現場報告をした人です」


 その署名は、ヴォス。


 三人の救済金は、遺族代理人を通して白鷺財団へ支払われていた。その代理人は、実在しない。


 アルマンの写しにある金額と、一致する。


 夕方、エリがミラへ小さな木の笛を渡した。


「先生が、痛いときに吹けって」


「傷が治る魔法?」


「いいえ。看護師がすぐ来るように」


 ミラは、笛を鳴らせなかった。


 父が生きているときに、返せるものがある。


 それだけで、胸がいっぱいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。