第12話 緑色の嘘
ミラは拘束されたまま、裁判所へ戻された。
レインの調査には、オルドが同行した。
「私は長く捜査をしている。長く間違いもしている。今回は少し減らしたい」
ブラムは庭の椅子で待っていた。
レインは誓約石を置いた。証言をやり直すためではなく、どこまで見たかを分けるためだった。
「相手の顔を見ましたか」
「襟巻きで口元を隠していて。目は、陰になって」
「髪は?」
「帽子をかぶっていました」
「相手がミラさんだと思った、一番の理由は?」
「声です。『先生、納入簿を見せてください』と」
石は緑。
「そのあと、話しかけました?」
「朝が早いですね、と。返事はありませんでした。それから咳を。昨日、先生と話されていたときと同じ、小さな咳」
レインは昨日の聞き取りの控えを借りた。
冒頭の文は、同じだった。
『先生、納入簿を見せてください。少し古いものを探しています』
咳の記録まではない。だが、録音筒の複製が見つかれば比較できる。
「私は、嘘をついたのでしょうか」
ブラムが、石から手を離した。
「いいえ」
レインはすぐ答えた。
「あなたは知っていることを話した。でも、赤い襟巻きと、ミラさんの声から、ミラさん本人だと判断した。見たものと、判断したものが、一つになっています」
ブラムの目に涙が溜まった。
「昔、私は盗難を見た。今度こそ、ちゃんと話そうと思ったんです」
彼は、膝の上で両手を組んだ。
「前のときは、身なりの悪い人を見かけたとだけ言った。その人が捕まった。あとで、持ち主の息子が持ち出していたと分かった」
レインは返事を待った。
「だから、今回は誓約石を使った。嘘ではないことを、確かにしてもらえば」
ブラムは石を見た。
緑の光が、指の節に映っていた。
「石が確かめるのは、あなたの正直さです。見た人の正体までは、確かめません」
オルドが、傍らから言った。
「そこの確認をするのは、我々の役目だった」
「私は、どう話せばよかったのでしょう」
「赤い襟巻きを見た。知っている声を聞いた。だからミラさんだと思った。そう話せば、分かれます」
レインが答えると、ブラムは何度も頷いた。
石から手を離す。
「もう一度、最初から話します」
今度は、記憶を守るためではなく、記憶の中で混ざったものをほどくために。
「人を捕まえてしまった」
「だから、今、分け直しています」
庭の隅に、ブラムが見た場所があった。そこから庭口までは二十歩。早朝の日陰では、顔を確かめるのは難しい。
植木の陰から、赤い繊維が見つかった。庭口の釘に引っかかっていた。
ミラの襟巻きは細い羊毛。繊維は、粗い麻だった。
「色の似た布を使った」
オルドが包みを閉じる。
レインは焼けた書庫の前に立った。
襟巻きも、声も、身につけられる。
身につけられないのは、その人のした選択だ。




