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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第2章「怪盗のいない予告状」

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第10話 怪盗の取り分

フィンは、事情聴取を終えて解放された。


 犯罪の計画は知らされず、館主が手配した余興だと聞いていた。依頼人の偽名と、報酬を受け取った場所が調書に残った。


 レインは帰り際に尋ねた。


「なぜ、そんな怪しい仕事を?」


「妹が、腹を空かせてたから」


 フィンは笑った。


「怪しいかどうかより、支払いが本物かを先に見ちゃうんだよ」


 レインは、その言葉も覚えておこうと思った。


 白鷺館の給仕の少女は、働き続けていた。


 皿の弁償は請求されなかった。ルカの工賃は、手付けを除いて未払いのまま。錠前師本人も姿を消している。


 少女の名は、アンナだった。


「ルカさん、毎年ここへ来るわけじゃありません。私が困ってるときだけ、なぜか近くに」


「どんなとき?」


「初めて働いた日に、帰りの道が分からなかった。お母さんが病気のときは、病院の場所を教えてくれた」


 ミラは、手帳を開いた。


「お金は受け取った?」


「一度だけ。でも、別の人からのお釣りを間違えたって。次に会ったら返してくれればいいと言われて」


 アンナは小さな布袋を出した。銀貨が三枚。


「返したいから、会いたいんです。いつも返す前に、いなくなる」


 レインは袋を預からなかった。


 ミラも、証拠品とは言わなかった。


「会えたら、あなたに渡すように伝える」


 アンナは首を傾げた。


「逮捕するんですか」


「悪いことをしたら、そのことは調べる。でも、このお金を返したい気持ちまで、取り上げない」


 少女は袋をしまい、頭を下げた。


 レインは、捜査官の仕事に、そんな言葉もあるのだと知った。


 経歴を調べると、住所は共同工房だった。ほかの職人は、忙しいときに手を貸す流れの職人だと言う。


「ノクスと同一人物かもしれない。でも、左手を隠していたことだけでは足りない」


 ミラは捜査帳を閉じた。


 夕方、給仕の少女が裁判所へ来た。


「ルカさんから。お二人へ渡してって」


 差し出された紙には、乱れた字でこうあった。


『鏡の落札予定額は金貨四百枚。

 修理代、銀貨二枚。

 皿の弁償、銀貨一枚。

 私の取り分は、いい夜を過ごしたこと。

 計算が合わないなら、探偵に任せる。

 追伸。聖ラザロの薬の納入簿は、聖オルカ診療所にある。』


 裏に、別の一行。


『子供に仕事を頼んだ件は、反省している。次は大人を騙す。』


 ミラは紙を二つに折った。


「反省するなら、出頭すればいい」


「そう伝えます?」


「伝える相手がいるなら、先に教えて」


 少女は二人を交互に見て、笑った。


 レインも少し笑った。こんな顔を、ミラができると知らなかった。


 翌朝、聖オルカ診療所で強盗が起きた。


 納入簿の保管人が襲われ、書庫が燃えた。


 目撃者は、誓約石に手を置いて証言した。


「襲ったのは、赤い襟巻きの捜査官です」


 その証言を聞いたレインは、隣のミラを見た。


 火事の時刻、彼女は彼と朝食を食べていた。

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