第10話 怪盗の取り分
フィンは、事情聴取を終えて解放された。
犯罪の計画は知らされず、館主が手配した余興だと聞いていた。依頼人の偽名と、報酬を受け取った場所が調書に残った。
レインは帰り際に尋ねた。
「なぜ、そんな怪しい仕事を?」
「妹が、腹を空かせてたから」
フィンは笑った。
「怪しいかどうかより、支払いが本物かを先に見ちゃうんだよ」
レインは、その言葉も覚えておこうと思った。
白鷺館の給仕の少女は、働き続けていた。
皿の弁償は請求されなかった。ルカの工賃は、手付けを除いて未払いのまま。錠前師本人も姿を消している。
少女の名は、アンナだった。
「ルカさん、毎年ここへ来るわけじゃありません。私が困ってるときだけ、なぜか近くに」
「どんなとき?」
「初めて働いた日に、帰りの道が分からなかった。お母さんが病気のときは、病院の場所を教えてくれた」
ミラは、手帳を開いた。
「お金は受け取った?」
「一度だけ。でも、別の人からのお釣りを間違えたって。次に会ったら返してくれればいいと言われて」
アンナは小さな布袋を出した。銀貨が三枚。
「返したいから、会いたいんです。いつも返す前に、いなくなる」
レインは袋を預からなかった。
ミラも、証拠品とは言わなかった。
「会えたら、あなたに渡すように伝える」
アンナは首を傾げた。
「逮捕するんですか」
「悪いことをしたら、そのことは調べる。でも、このお金を返したい気持ちまで、取り上げない」
少女は袋をしまい、頭を下げた。
レインは、捜査官の仕事に、そんな言葉もあるのだと知った。
経歴を調べると、住所は共同工房だった。ほかの職人は、忙しいときに手を貸す流れの職人だと言う。
「ノクスと同一人物かもしれない。でも、左手を隠していたことだけでは足りない」
ミラは捜査帳を閉じた。
夕方、給仕の少女が裁判所へ来た。
「ルカさんから。お二人へ渡してって」
差し出された紙には、乱れた字でこうあった。
『鏡の落札予定額は金貨四百枚。
修理代、銀貨二枚。
皿の弁償、銀貨一枚。
私の取り分は、いい夜を過ごしたこと。
計算が合わないなら、探偵に任せる。
追伸。聖ラザロの薬の納入簿は、聖オルカ診療所にある。』
裏に、別の一行。
『子供に仕事を頼んだ件は、反省している。次は大人を騙す。』
ミラは紙を二つに折った。
「反省するなら、出頭すればいい」
「そう伝えます?」
「伝える相手がいるなら、先に教えて」
少女は二人を交互に見て、笑った。
レインも少し笑った。こんな顔を、ミラができると知らなかった。
翌朝、聖オルカ診療所で強盗が起きた。
納入簿の保管人が襲われ、書庫が燃えた。
目撃者は、誓約石に手を置いて証言した。
「襲ったのは、赤い襟巻きの捜査官です」
その証言を聞いたレインは、隣のミラを見た。
火事の時刻、彼女は彼と朝食を食べていた。




