STEP2:ピアノの軋み
一番はじめは、怪談倶楽部と吹奏楽部の顧問の伊坂先生が話をした。
黒電話は……知らない人のほうが多いかも?
◯登場人物
優太
高校二年生 帰宅部
読書、ゲームが趣味
陽真理
高校二年生 怪談倶楽部
ユウタの幼馴染、明るく友達が多い
麗華
高校二年生 怪談倶楽部 部長
ヒマリの一年の頃からの友達
伊坂先生
48歳 三年生の担任
吹奏楽部と怪談倶楽部の顧問
大輔
高校三年生 吹奏楽部 部長
ピアノを担当している。
伊坂先生の話が終わった。
「伊坂っち! 一言いいですか〜?」
ヒマリが、先生の話が終わった直後に発言する。
「ん? なんだ?」
「先生、一応吹奏楽部の顧問もしてるんだから、せっかくなら楽器ぽい怪談話してよ〜!」
まぁ確かにそうだけども。
「いや、それは部員がしたらいいだろう。まぁあれだ、とりあえず場を温めるための、前説みたいなもんだから、気にせず後はみんなで好きにやってくれ。一応一人せめて一回ずつは話せるようにしたらいいと思うけど、あとは自由にしな」
なんだかノルマみたいに言われるのも酷な気が。僕は数合わせに呼ばれただけなんだけど。部長と名乗っていたレイカが立ち上がる。
「先生、ありがとうございます。黒電話ってもう最近は見ることもないし、古いドラマとかで出てきたりするくらいのイメージなんですけど、先生が小さい時は普通にあったんですね……なんか時代を感じました。えーと、私達ステップス倶楽部の部員からでもいいですけど、もし吹奏楽部の先輩達もお話用意されていたら、よかったらどうぞ」
レイカの話しぶりからして、吹奏楽部の四人はみんな三年生らしい。男女二人ずつだった。
そのうちの男子一人が手を上げて発言する。物静かな大人しそうな人だ。
「えー、じゃあせっかくなので吹奏楽部の一人目、上手く話せないかもだけど、楽器にちなんだお話をしようと思う。あ、僕は吹奏楽部の部長をしてる大輔といいます」
——これは、僕が中学二年生の時のことです。
僕は、中学の時も今と同じ吹奏楽部に所属していて。
楽器はホントはトランペットとかサックスとかをしたかったんだけど、肺活量があまりないので、小さい時から習っていたピアノを担当したんだ。
その時の部員はあまり人数も揃っていなくて、ホントは色々な楽器があるほうが演奏も華やかになるし、楽曲も色々なものが出来るんだけど、三学年合わせて、なんとか揃うか揃わないかというくらいの過疎ぶり。
今もそうだけど、一人だけでいくら演奏が上手くても、全員が合っていないと演奏は無茶苦茶になる。打楽器などのリズム隊ももちろんだけど、ピアノはメロディと共に、ある程度、演奏自体を整えるような役割りもあるから、そういうのを意識はしていた。
僕は、趣味もなくて、ピアノが少し弾けるのだけが取り柄という感じだったから、毎日毎日一生懸命練習……その繰り返し。
朝練も欠かさずしたし、放課後も出来る限り残るようにしていて。
そんな二年の夏のある日のことなんだけど。
放課後の遅い時間に、一人でピアノの練習をしていた時。
いつも練習していても、もちろん完璧と感じることはないけど……その日は何故かずっと違和感があったんだ。
ピアノを弾いている時に、なんというか弾いている手に伝わってくる振動があるんだけども、それが少し変な感じで。
みしり みしり
なんか、そういう木材が軋むような音、というのか。
で、弾くのをやめると、その音もピタリと止む。それも弾きはじめの時ではなく、まぁまぁ僕がのってきた頃合いになってくると、
みしり みしり
それが起きる。今まではそんなことは起きたことはなくて。
でも、それからずっと、その音は鳴り続けた。
不思議なことに、団体練習だったり、何人かで合わせている時は、その音は鳴らないんだよね。
必ず僕が一人の時にだけ、鳴る。
でも、その音も特別大きいものではないし、ピアノ自体に異変があるわけでもないし。もし変な声が聞こえるとかだったら、もっと怖いし、僕も耐えられなかったのかもしれないけど。
なんとなくだけど、調子良く弾けているから、無意識で強く鍵盤を叩き過ぎたことで起きる軋みなのかも、と都合よく解釈をしたんだ。
みしり みしり
僕はいつしか、その音を特に不思議と感じることもなく、何か当たり前のように感じるようになっていった。
その年の、冬休み前、年末のこと。
僕はいつものように、個人練習をしていた。その時は凄く調子がよく、いつもより自分の中でものっていたと思う。
そしたら……
めきめき めきめき
いつもと違う感じの軋みに、僕はびっくりして、演奏を止めた。何か苦しいような、折れてしまうような、そんな音に聞こえた。
ピアノ自体は何も変化はない。
少し気持ち悪くなってしまい、その日は練習を終える。
その時の顧問の先生に、後日、その話をしたんだよね。
すると、先生は驚いたような。何か悲しいような表情をして。
少し考えていたけども、僕にこう話してくれた。
先生が顧問を受け持つようになった数年前に、とてもピアノが上手な女子生徒がいて。
先生はその生徒の演奏をよく褒めていたらしい。
でも、その子がある日、名前は教えてくれなかったけど難病を患って、寝たきりの生活になってしまったらしくて。
はじめはある程度話すこともできたみたいだけど、そのうちそれもできなくなっていったみたい。
先生はたまにお見舞いには行っていたらしく、と言っても二ヶ月に一度というくらいの頻度らしいけども。
今年の夏には、もう動くこともできなくなっていたみたいで。
そして、その子のご家族から数日前に連絡があった。
息を引き取ったと。
その連絡があった日が、僕が異常な軋みを聞いた日と、同じだったんだ。
二人目は、吹奏楽部の部長のダイスケ。
その話は、とても悲しいものだった。




