STEP 1:黒電話
ヒマリと共に学校に行き、そこでヒマリの友達と合流し、三階の視聴覚室に向かう。
合同納涼祭が始まる。
◯登場人物
優太
高校二年生 帰宅部
読書、ゲームが趣味
陽真理
高校二年生 怪談倶楽部
ユウタの幼馴染、明るく友達が多い
麗華
高校二年生 怪談倶楽部 部長
ヒマリの一年の頃からの友達
麻衣
高校二年生 怪談倶楽部 副部長
レイカと同じくヒマリの一年の頃からの友達
創太
高校二年生 怪談倶楽部
伊坂先生
48歳 三年生の担任
吹奏楽部と怪談倶楽部の顧問
「夜の学校って、なんだかそれだけで雰囲気あるよね……もうすでに怖いんだけど」
レイカかマイ、どっちかの子が呟く。
三階の奥にある視聴覚室の扉を開いた。
部屋の中は薄暗くて、部屋の天井照明ではなく、長机の上に置かれた、ロウソク? 良く見るとロウソクを模したLEDライトが、何個も置かれていて部屋をぼんやりと照らしていた。
「お、三人娘も来たか。準備手伝ってくれよ〜」
伊坂先生が机を出したり、椅子を並べたりして、もう一人の男子のソウタや、おそらく吹奏楽部の人達と思われる生徒と忙しく動いていた。
「え、伊坂っち、だって私たち華奢な乙女なんだから机とか椅子とか持てないよ〜」
ヒマリが言う。いや、テニスラケットを振る勢いを見たけど、コンクリの壁でも破壊しそうだったような。
普段の視聴覚室は、長机を二つずつ並べて、椅子をそれぞれに二脚ずつ置いているような配置だけど、今回は長机を長方形の形に並べ、中央に長机をひとつ。その上に携帯と、LEDライトが置かれていた。みんなで輪っかになって座るような感じになっていた。
録音……するのかな?
「んじゃまぁ、そろそろ時間だし。各々座ろうか。トイレは先に行っとけな」
先生が皆に言う。
僕と三人娘と、ソウタと、吹奏楽部らしき何年生かわからないけど四人。先生を含めて十人が部屋にいた。
「伊坂っち、この子は同級生のユウちゃんね」
「あぁ、知ってるぞ。よく一緒にいるもんな」
僕は無言で会釈した。
ヒマリにレイカと言われていたと思う子が、皆の方をぐるりと見渡して発言する。
「みなさんこんばんは。ステップス倶楽部の部長をしています、麗華です。部長と言っても部員は四人しかいないんですけども。今回は顧問の伊坂先生の配慮もあって、吹奏楽部の怪談好きの方達と合流で、【音にまつわる】ステップトークの場を設けることが出来たことに、感謝します」
ステップトーク……怪談話ということかな。レイカと一緒にいたマイがそのあとを話し始める。
「副部長の麻衣です。時間は事前にお伝えしていた通り20時から24時までの四時間の予定なんですが、体調が悪かったり、早くに帰られる方は遠慮なく言ってくださいね、強制ではないので。今回は数えたところ十人なので、特に時間制限はないですけども、だいたい一回のお話を十分くらいを二回ずつくらいの目安で。途中一時間に一回くらい休憩も挟みたいと思います」
割とそれなりには考えてるのかな? まぁ交流も含めてという感じだもんね。最後にソウタが言葉を続ける。
「創太です。では、夏の合同納涼祭を、開始したいと思います。お話のはじめに、よかったら簡単な自己紹介をしていただけるとありがたいです」
自己紹介、か……苦手なやつだ。ていうか。最初は誰が話すんだろう。
なんとなく周りを探るような雰囲気になってきてるのに気付いて、先生が口を開く。
「あー、初めはちょっと話しにくいよな。んじゃまあ俺がちょこっとだけ話そうかな。あ、一応なんだけど、その真ん中の机に置いてる携帯で、怪談話を録音することにしているぞ。もちろん悪用はしないから安心してくれ」
中央にある携帯を操作して、おそらく録音状態にしてから、座席に戻る先生。
「三年の担任をしている伊坂だ。あと、吹奏楽部とステップス倶楽部の顧問をしている。来週、再来週のメンツはどうなるかわからないけど、とりあえずよろしく」
——これは、俺が五歳の頃の話だ。
今から四十年以上前のこと。今のようにスマホもなくて、携帯電話自体もなかった時代。
自宅の電話機ってあまりイメージがないかもしれないが、黒電話と呼ばれるダイヤル式の電話機が当時主流だった。
ジリリリン ジリリリン
黒電話には誰からかかってきたという表示もないから、もちろん受話器を上げる、電話を取らないと誰からかかってきたかもわからない。
俺は、五歳の子供だったから、電話を取るということがそもそもなかった。
まぁ親だったり大人が取るよな。
あ、ウチは自宅で商いをしていたから、そういう取引先なんかの電話もあったらしい。なんやらかんやら数字の話やら、金の話やらをしていたと思う。
ある日、親もいなくて、店番も何処かに出かけていて、家に俺一人の時があった。
ジリリリン ジリリリン
電話がなっている。
そのうち誰か帰ってくるだろうし、それに子供の俺が取っても取り次ぎも何もできるわけじゃない。そう思って、うるさいなと思いながらも、鳴りっぱなしの電話を放置していたわけだ。
ジリリリン ジリリリン
十回以上は鳴っていたと思う。さすがにこれは取るだけ取って、大人は誰もいないとか、子供だからわからないとか、言うくらいはできるかなと思い、
俺は電話を取った。
すると、子供の鳴き声が聞こえてきた。
しくしく しくしく
いたずら電話かな。
しくしく しくしく
どうしたの? と聞いてみても、相手は何も答えない。そして、その鳴き声の合間と言うか、微かに聞こえてくる水の音がした。
ぴちゃ ぴちゃ
しくしく しくしく
水の音……というより、水たまりの上を歩いているような、そんな音だったかもしれない。
俺は気持ち悪くて、受話器を置きたかったんだけど、何故か何かに取り憑かれてしまったかのように身体が固まってしまった。
ぴちゃ ぴちゃ
しく しくしく
延々と続くその音と鳴き声。
俺は怖いのと悲しいのと、何かごちゃ混ぜになった感情で、きっと泣いていたと思う。
その時、店番の人が帰ってきて、俺の様子が変なことに気付き声をかけてくれた。
大人が帰ってきてくれた安心もあって、ふと身体の硬直が解けた俺は、すぐさま受話器を置いた。
店番の人に電話のことを言っても、伝わらないし、子供が何か言ってるぞ、というくらいにしか取られない。
まぁ仕方ないよな。
とりあえず俺は、その電話から解放されただけでほっとしたのもあって、別に誰かに聞いてほしいとも思わず、何か夢でも見たのかなというくらいに思うようにした。
ほどなくして、親が家に帰ってきた。
その親が帰宅そうそう口にした言葉はこうだった。
近所の子供が川に落ちて死んだ、と。




