憧れのダンジョンと地道な一歩
「迷宮都市のダンジョン……! ねぇねぇリーダー、わたし達も一緒に行ってみたい! ダメかな……?」
ひよりは目をキラキラと輝かせ、胸元のふわっとした布地をゆらゆら揺らしながら、リーダーの戦士にお願いしてみた。
横にいたスコットも
「僕も、もっと修行したいです!」
と身を乗り出す。
だが、リーダーは腕を組み、真剣な表情でゆっくりと首を横に振った。
「ダメだな。お前たちはまだ初心者だからな。それにダンジョンでは予想もつかない事が起こっても対処していかないといけない。それぞれが自分の身は自分で守れる程度にならないと、安心して後ろをまかせられないからな」
「うぐっ……」
リーダーの言い分はぐうの音も出ないほど真っ当だった。
さっきのウルフ戦ではひよりが凄まじい立ち回りを見せたものの、ダンジョンという閉ざされた空間では何が起きるか分からない。足手まといを庇いながら潜るほど、ダンジョンは甘い場所ではないのだ。
《ひより、リーダーさんの言う通りだよ。今のボクたちには、まだダンジョンに入るための基礎体力も、非常事態への対応力も足りてない。無理をして潜ったら、周りの人にも迷惑がかかっちゃうからね》
脳内でキュアが静かに諭すと、ひよりもしゅんとしつつ納得した。
「うん……わかった。勝手なこと言ってごめんなさい。もっと強くなってから挑戦する!」
「ハハッ、聞き分けが良くて助かるよ。お前たちならすぐ強くなるさ。じゃあな、無事に帰れよ!」
ベテラン5人組は頼もしい背中を見せながら、ダンジョンへと続く地下道の方へ去っていった。
「ひよりさん、せっかくだし、この町のギルドに行ってみようか。この街でしか受けられない依頼があるかもしれないし!」
「うん、行こう行こう!」
気を取り直した二人は、隣町のギルド出張所へと向かった。
元の街のギルドよりも、ダンジョン挑みの冒険者たちでごった返しており、掲示板にはズラリと多種多様な依頼紙が貼り出されている。
二人が掲示板を覗き込んでいると、気になる依頼がいくつか目に入った。
【緊急依頼:ダンジョン3層の調査隊へ手紙を届けること】
「手紙を届けるだけなら簡単そう!」
とひよりが一瞬目を輝かせたが、詳細を見てスコットが即座に首を横に振った。
「ダメだよひよりさん。ダンジョンの中にいる冒険者に直接届ける依頼だから、危険な階層まで潜らなきゃいけないんだ。これは高ランクの冒険者じゃないと受講できない難易度が高いやつだよ」
「そっかぁ……やっぱりダンジョンの中に入るのは、まだ無理なんだね」
諦めて別の用紙を探していると、掲示板の隅にちょうど自分たちにぴったりな依頼を見つけた。
【定期依頼:ダンジョン前哨基地(入口)への食料品搬送(※複数回往復あり)】
「これならどうかな、スコットくん! ダンジョンの『入口』までご飯を運ぶお仕事みたい!」
「これならダンジョンの中に入らなくてもいいし、街と入口を何往復もするから、このあたりの地理を覚えるのにもちょうど良そうだね!」
二人はさっそく受付で手続きを済ませ、重い食料品の箱を抱えてダンジョン入口への往復を開始した。
「よいしょ、よいしょ……!」
サーシャちゃんが作ってくれた二重構造の制服は、食料品の箱を抱えて歩く際にも真価を発揮していた。胸元を覆うふわっとした布地が摩擦を和らげてくれ、内側のベース衣装が揺れをしっかり抑えてくれるため、重い荷物を持って歩いても全く苦にならない。
「ひよりさん、体調は大丈夫ですか? 僕がもっと持ちますよ!」
「平気平気! わたし、力持ちだもん!」
何往復も街道とダンジョン入口を行き来する地道な作業。
だけど、ダンジョン入口に集まる強そうな冒険者たちの熱気を肌で感じ、スコットと声を掛け合いながら汗を流す時間は、ひよりにとって冒険者としての着実な第一歩だった。
《地道だけど、すごく良い経験になってるよひより。焦らず一つずつこなしていこうね》
(うん! 今日の夜は美味しいもの食べて、民宿で鍵をちゃんとかけて、ぐっすり寝るぞーっ!)
憧れのダンジョンを遠目に見上げながら、ひよりとスコットは新しい街での爽やかな汗を流すのだった。




