浴衣風の寝巻きと純情少年の限界
昼間の食料品運びの仕事を終え、夕食と温かいお風呂を済ませたひよりとスコット。
隣町の民宿は思いのほか綺麗で、部屋の鍵もちゃんとかかる安心できる宿だった。
神官のお姉さんに教わった通り、しっかりドアの鍵を閉めたひよりは、宿で用意されていた「浴衣風」のゆったりとした寝巻きに着替え、自分の部屋にスコットを招き入れた。
「スコットくん、入って入ってー!」
「は、はい! お邪魔しま……っ!?」
部屋に入った瞬間、スコットの足がガクガクと震え出した。
ベッドの端にちょこんと腰掛けたひよりは、完全にリラックスモードだ。しかし、宿の浴衣風の寝巻きはサイズが普通の大人用だったため、圧倒的なバストを誇るひよりには、合わせ目がかなり緩くなってしまっていた。
ひよりが無邪気にスコットを見上げようと少し前傾姿勢になった瞬間――椅子に座ったスコットの視線(上からの角度)からは、ゆるりとはだけた浴衣の襟元の隙間から、ふっくらとした美しい胸の谷間が完全に丸見えになってしまっていた。
(ひ、ひよりさんッ!? 浴衣が肌けて谷間が……谷間が丸見えだよぉぉぉっ!!)
15歳のピュアな少年スコットの脳内原子炉が、一瞬でメルトダウンを起こした。顔は耳の裏までリンゴのように真っ赤になり、目玉が飛び出んばかりに泳ぎ回る。
「スコットくん? どうしたの、顔が真っ赤だよ? お熱あるの?」
中身が10歳のひよりは、自分の胸元がどれほど無防備で刺激的になっているかなど露知らず、不思議そうに首をかしげてベッドの上でトントンと手をついた。そのたびに浴衣の胸元が微妙に揺れて、スコットの寿命が削られていく。
《あはは! スコットくん、今にも煙を吹いて倒れそうだよ、ひより。少しは自覚しなよ〜》
脳内でキュアがやれやれと呆れつつも、面白がってクスクス笑っている。
「な、なんでもないです! 大丈夫です! ゲホッ、ゲホッ!」
スコットは必死で視線を天井の木目に固定し、背筋をピンと伸ばしながらあわあわと手を振った。
コップの水を一気に飲み干してどうにか理性を保ったスコットは、胸元を見ないよう細心の注意を払いながら、本題へと意識を切り替えた。
「え、ええっと……『今後のこと』ですよね!」
「うん! あのね、スコットくん」
ひよりは真剣な表情になり、膝の上で小さな拳をぎゅっと握りしめた。
「昨日リーダーさんにも言われた通り、わたし達はまだ初心者で、ダンジョンには入れないじゃない? でもね、わたし、もっと強くなりたいの! ダンジョンに入らなくても、街の中で何か『能力』をアップする方法ってないのかな?」
「能力アップ、ですか……」
スコットは天井を見たまま、冒険者としての知識を懸命に思い起こした。
「実は、実戦で経験値を稼ぐ以外にも、強くなる方法はいくつかあります。
例えば……『魔力操作の精度を上げるトレーニング』や、『新しい属性やスキルの習得』です!」
「新しいスキル……! なんだかゲームみたい!」
ひよりが目を輝かせると、スコットは天井から少しだけ視線を下げ(もちろんひよりの顔より上をキープしつつ)、詳しく説明を続けた。
「はい! ダンジョンに入らなくても、街のギルドにある訓練施設や図書館を利用すれば、魔力の基礎量を増やしたり、新しい魔法の呪文を勉強して覚えることができるんです。それに、自分の得意な属性以外の『魔導書』を読んで知識を深めれば、ステータスそのものの成長効率が良くなるって言われています!」
「すごーい! 本を読んだり、特訓したりしても強くなれるんだ!」
《スコットくんの言う通りだよ、ひより。特にボクたちの『魔法剣士』としてのスタイルなら、剣を振り回すだけじゃなくて、体内の魔力回路をスムーズにする座学や瞑想もすごく大事なんだ。今のうちに基礎をドカンと底上げしておけば、次にダンジョンに挑むときに段違いに楽になるよ》
脳内のキュアも、スコットの提案に「素晴らしいね!」と賛同した。
「僕も……攻撃力のある新しい魔法を覚えるために、この街の魔法屋や図書館で魔導書を探そうと思ってたんです。ひよりさんも一緒に、明日から街で『能力アップの特訓』をしてみませんか?」
「うん、やるやるー! わたし、もっと凄い魔法剣士になりたい!」
ひよりは嬉しさのあまり、ベッドの上でポンッと弾んだ。
その弾みに合わせて浴衣の胸元が再びふんわりと揺れ、スコットは「ブッ!」と鼻を押さえて再び天井へと視線を撃ち上げるのだった。
「よし! 明日はギルドの施設と図書館に行って、いっぱい勉強と特訓をしよ! スコットくん、教えてくれてありがとう!」
「は、はい……! お役に立てて良かったです……!」
真っ赤な顔のまま、心の中で「ひよりさんの無防備さに耐える訓練も必要かもしれない……」と切実に誓うスコット。
隣町の静かな夜、二人は明日からの「街での能力アップ計画」に胸を躍らせながら、それぞれの課題に向き合っていくのだった。




