ウルフ退散とスコットの決意
ひよりが瞬く間に3頭のウルフを仕留めたことで、戦況は一気にひよりたちのペースへと傾いた。
「よし、姉ちゃんに負けてられねえな! お前ら、一気に畳み掛けるぞ!」
リーダーの怒号に応え、ベテラン冒険者たちもさらに鋭い連撃を繰り出し、襲いかかるウルフを次々と一刀両断していく。
一方、荷馬車の反対側では、スコットも必死に戦っていた。
「――『ウォーターバレット(水弾)』ッ!!」
スコットが放った鋭い水の弾丸が、突進してきたウルフの顔面に命中する。
ウルフは「キャン!」と悲鳴を上げて一歩後退した。すかさずスコットはもう一発水弾を放ってウルフを牽制し、馬車への接近を見事に防いでみせる。
しかし、水魔法の弾丸はウルフを怯ませ、足止めすることはできても、ひよりのストーンバレットや短剣のように、一撃で完全にトドメを刺すほどの威力には至らない。
スコットが息を切らしながら3頭目のウルフを水の手数で押し返したその時だった。
リーダーの大剣が最後のウルフの首を撥ね飛ばすと、生き残っていた数頭のウルフたちは、完全にひよりたちの強さに圧倒され、尻尾を巻いて、
ガルル……ッ
と鳴き声を上げた
これ以上は太刀打ちできない――そう本能で察した群れは、一斉に反転し、蜘蛛の子を散らすように茂みの奥へと退却していった。
【大絶賛のひよりと、スコットの焦り】
「ふぅ……! 逃げていっちゃったね。みんな、怪我はない?」
ひよりが短剣をサヤに収め、お洋服の裾をひらひらと揺らしながらみんなを振り返った。
完璧なホールド力のおかげで、これだけ激しく動いた後でも彼女の美しい制服姿は一切乱れていない。
「怪我がないどころか、お前のおかげで無傷で済んだよ! いやあ、たまげた。あの状況から魔法と短剣のコンビネーションで3頭一瞬なんて、度肝を抜かれたぜ!」
リーダーをはじめ、ベテランの先輩たちがひよりの周りに集まり、口々に彼女の初実戦の快挙を大絶賛した。
「スコットもよくやったな! しっかり馬車の反対側を死守してくれたおかげで、商人の荷物も無事だ!」
「あ……はい、ありがとうございます……!」
先輩に頭を撫でられ、スコットは無理に笑顔を作って応えた。
確かに自分も少しは活躍できた。荷馬車を守るという最低限の役割は果たした。……だけど、スコットの心の中は、言いようのない悔しさと焦りでいっぱいだった。
(ひよりさんに、いいカッコ、全然できなかったな……)
隣でニコニコと笑っているひよりを見る。自分より年上に見える美しくてグラマラスな彼女を、今度は自分が守って男らしいところを見せたいと格好をつけて一時加入を勧めたのに、蓋を開けてみればひよりの方が圧倒的に強かったのだ。
さらに、スコットは自分の手のひらを見つめ、強く奥歯を噛み締めた。
(やっぱり、僕の『水魔法』だけじゃ……攻撃力としては弱すぎる。ウルフを怯ませることはできても、ひよりさんみたいに敵を倒しきる強さがない。このままじゃ、いつか本当に強い魔物に出会ったとき、ひよりさんの隣を歩くことすらできなくなっちゃう……)
スコットの胸の奥で、熱い塊がふつふつと湧き上がる。彼はある強い思いを、誰にも言わずにそっと胸の内に秘めた。
(今の僕のままじゃダメだ。この依頼が終わって街に戻ったら……もっと攻撃力のある、『新しい魔法』を死に物狂いで勉強して身につけてみせる。
火魔法か、それとも風魔法か……絶対に、ひよりさんに追いついてみせるんだ……!)
少年のピュアな恋心と冒険者としてのプライドが、彼を新たな成長へと突き動かそうとしていた。
ひよりの脳内では、そんなスコットの複雑な男の子心にいち早く気づいたキュアが、やれやれと苦笑いしていた。
《あはは、ひより。スコットくん、君の圧倒的な強さに完全に火がついちゃったみたいだよ。男の子のプライドがメラメラ燃えてる。でも、こういう悔しさが男を強くするんだよね》
(ふえ? スコットくん、なんだか真面目なお顔をしてるね? どこかお腹痛いのかなぁ?)
《はは、お腹じゃなくてハートだよ。まぁ、街に戻った後のスコットくんの頑張りが楽しみだね》
「よし、ウルフの警戒も解けたな! 昼過ぎには民宿のある町に着くぞ。このまま一気に進むぞ!」
リーダーの号令がかかり、7人と荷馬車は再び歩き出す。
ひよりへの憧れと、新しい魔法を絶対に手に入れてみせるという強い決意を胸に秘めたスコットは、さっきよりも少しだけ大人びた顔つきで、ひよりの斜め後ろをしっかりと歩き続けるのだった。




