魔法剣士の長剣
「まほうけんし……! なんだか響きがすっごく格好いい!」
ひよりが目をキラキラと輝かせていると、ゴルドはニヤリと不敵に笑い、訓練所の壁際に立てかけられていた、ずっしりと重みのある前衛用の「長剣(木剣)」を一本、掴み取ってきた。
「おい姉ちゃん、短剣の身軽さもいいが、こいつを持ってみろ。魔法剣士ってのはな、長剣の大振りに魔法の威力を乗せてぶち込むのが醍醐味なんだよ」
「わぁ、おっきい剣だね!」
ひよりはゴルドから長剣の木剣を受け取った。
10歳のひよりにとっては未知の重さのはずだが、20歳の大人の引き締まった肉体は、その重量を難なく支えてみせる。サーシャが作ってくれた新しい制服のホールド力のおかげで、重い剣を持っても胸元がグラつくこともなく、すこぶる構えやすい。
「いいか、まずは基本の『形』だ。足をこう開いて、腰を落とす。そこから一気に踏み込んで、こう振り抜くッ!」
フンッ!
と凄まじい風切り音を立てて、ゴルドが長剣の手本を見せた。大柄な体躯から繰り出される一振りは、木剣とは思えないほどの迫力だ。
「やってみろ!」
「はーい! ええっと、こうだね? ――ていっ!」
ひよりはゴルドの動きをじっと見つめると、その滑らかな体の使い方や重心の移動を、持ち前の抜群の運動神経で一瞬にしてコピーしてしまった。
トン、
と軽やかに足を踏み込み、綺麗な弧を描いて長剣の木剣を真っ直ぐに振り抜く。
ブンッ!!
初心者とは思えないほど綺麗で無駄のない鋭い風切り音が、訓練所に響き渡った。
ひよりが剣を振り抜くと同時に、胸元から腰へと垂れ下がる二重構造のふわっとした布地が、まるで美しい翼のようにひらひらと優雅に宙を舞う。
あまりにも「すんなり」と完璧な形をやってのけたひよりを見て、ゴルドは
「……なっ!?」
と目を見張り、スコットにいたっては
「すごすぎる……」
と口をあんぐりと開けて固まってしまった。
ひよりの脳内では、相棒のキュアが飛び上がって大興奮していた。
《ひより! すごいね! フォームがめちゃくちゃ綺麗だよ! もしかして本当にものすごい才能あるかも……!》
(ふえへへ、キュアに褒められちゃった! なんだかこの体、思った通りにすいすい動いてくれて、剣を振るの、すっごく気持ちいいよ!)
ひよりがニコニコしながら木剣を構え直すと、ゴルドは感心したように顎をなで、少し声を潜めて教えるように言った。
「おいおい、本当に大したもんだ。だがな姉ちゃん、今はただの『木の剣』だから魔法を流すのはダメだぞ。木じゃ魔力に耐えきれずに一発でパァになっちまうからな。……だが、もしこれが『魔法を通す剣(魔導剣)』なら、話は別だ。威力が何倍にも倍増するぞ」
「いりょくがばいぞう……! なんだかアニメのパワーアップみたい!」
「ハハッ、まさにその通りだ。それだけじゃねえ。もっといいやつ――熟練の鍛冶師が作った高級な魔導剣なら、ただの武器じゃねえ。魔法使いが使う『魔法の杖』と全く同じ効果もあるしな。呪文の威力を高めたり、詠唱を助けてくれたりするんだ」
ゴルドのその言葉に、ひよりはさらに胸を(ふんわりカモフラージュしたまま)高鳴らせた。
剣としても戦えて、しかも魔法の杖の代わりにもなるなんて、まるでアニメの伝説の勇者様か最強のヒロインのようだ。
「魔法の杖とおなじ……! じゃあ、わたしがそのかっこいい剣を持ったら、魔法ももっと強くなるのかな?」
「もちろん、相乗効果でとんでもねえ威力になるだろうよ。お前がその才能を磨き続ければ、いつかそんな業物を手にする日も遠くねえな」
ゴルドが力強く太鼓判を押すと、横で聞いていたスコットも
「魔法の杖と同じ効果がある剣……僕もいつか、ひよりさんに似合うような凄い魔導剣を見つけられるくらい、立派な冒険者になります!」
と、頬を少し赤くしながらも拳をぎゅっと握りしめて誓っていた。
「うん! スコットくん、ありがとう! わたし、もっと練習がんばるね!」
新しいお洋服の裾をひらひらと揺らし、長剣を構えて無邪気に笑うひより。
脳内のキュアと、目の前のスコット、そして鬼教官のゴルドに見守られながら、ひよりの『無敵の魔法剣士』への第一歩は、想像以上の輝きを放ち始めていた。




