魔法剣士の才能
「それじゃあスコットくん、いくよー!」
「は、はいっ! お願いします!」
訓練所の乾いた床の上で、ひよりとスコットの軽い手合わせが始まった。
スコットが長い木剣を両手で構え、少しへっぴり腰ながらも
「たぁっ!」
と真っ直ぐに打ち込んでくる。
中身は10歳のひよりだが、20歳の大人の肉体と抜群の運動神経は伊達じゃない。アニメのヒロインのステップを再現するような軽やかなフットワークで、スコットの単調な一撃をスッと紙一重で躱してみせた。
「えいっ!」
さらにひよりは、昨日斥候のファラが見せてくれた身のこなしを思い出し、手渡された訓練用の短剣の腹で、スコットの木剣の軌道を「チィン!」と滑らかに受け流した(パリィ)。
サーシャが作ってくれた新しい制服の、胸元から腰に垂れるふわっとした二重構造の布地が、その動きに合わせてひらひらと優雅に舞い踊る。完璧なホールド力のおかげで、どれだけ激しく動いても、走っても、激しく跳ねない抜群の安定感だ。
「わあ、本当に動きやすいお洋服!」
「うわっ、と、とと……!?」
体勢を崩したスコットの隙を見逃さず、ひよりはパタパタと懐に飛び込むと、短剣の柄頭でスコットの脇腹をトントン、と軽く突いた。
「はい、ありゃりゃ〜! わたしの勝ちだよ、スコットくん!」
「う、うう……強いなぁ、ひよりさん……。本当に昨日が初めてなんですか……?」
それから何度も手合わせを繰り返したが、結果はすべて同じだった。
1時間後、スコットは木剣を杖代わりに地面につき、
「はぁ、はぁ、はぁ……」
と肩で激しく息を切らせてへばり込んでしまった。対するひよりは、額に薄っすらと汗をにじませている程度で、まだまだ元気いっぱいに短剣を構えている。
「おいおい、男のほうが先にへばってどうすんだ、情けねえぞ!」
――ドガドガと地響きのような足音と共に、第一訓練所の入り口に鬼教官ゴルドが立っていた。
腕を組み、ニヤニヤと獰猛な笑みを浮かべながらひよりを見つめる。
「それにしても魔法使いの姉ちゃん、随分と元気じゃねえか。スコットの木剣を綺麗に受け流してやがったな。よし……次は俺が直々に相手をしてやる。来い!」
「えっ、おっちゃんが!? うん、おねがいします!」
ゴルドが太い訓練用木剣を構える。ひよりは小さく息を吸い、短剣を逆手に持ち替えて鋭く踏み込んだ。
――バシィィンッ!!
ゴルドの重い一撃が繰り出されるが、ひよりは抜群の反射神経でそれを躱す。すかさず、さっきゴルドに教わった『生存の鉄則』を実践した。
ひよりは空いている左手をゴルドの目の前に突き出し、
「――『キュアライト』!」
と、目眩まし代わりにささやかな光の魔法を放ったのだ。
「ほうっ!?」
一瞬、ゴルドの視界が白い光に遮られる。そのわずかな隙を突き、ひよりはゴルドの懐へと鋭く滑り込み、右手の短剣をゴルドの太い首筋へと突き出した。
ピタッ。
ゴルドの木剣の柄が、間一髪でひよりの短剣を止めていた。だが、ゴルドの顔からは完全に余裕が消え失せ、驚愕の表情でひよりを見つめていた。
「……信じられねえな。魔法のフェイントを即座に戦闘に組み込みやがった。体の軸もブレちゃいねえ。姉ちゃん、お前、やっぱりとんでもなく筋がいいぞ。本当に今まで武器を握ったことがねえのか?」
「うん! アニメの真似っこしかしたことないよ!」
ひよりが10歳児の笑顔で無邪気に答えると、ゴルドはしばらく呆然とした後、頭をガシガシと掻き毎きながら、豪快にハハハと大笑いし始めた。
「傑作だ! 魔法使いにしておくには勿体ねえな! お前、むしろ前衛の剣士になれるんじゃねえか? いや……魔法で敵を翻弄し、短剣で間合いを詰めて仕留める。魔法も剣も使える**『魔法剣士(魔導剣士)』**だ。この街にゃ今、まともな魔法剣士はいねえ。本気で目指してみる気はねえか!?」
「まほうけんし……! なんだか響きがすっごく格好いい!」
ひよりは目をキラキラと輝かせた。
脳内では、キュアが誇らしげに、そしていつもの優しい男の子口調で楽しそうに語りかけてくる。
(あはは! ひより、すごいじゃないか! あの鬼のゴルドさんにそこまで絶賛されるなんてね。魔法剣士キュアひより、うん、ボクたちのコンビにぴったりな名前だ。ボクの魔法サポートがあれば、本当に最強の魔法剣士になれちゃうかもよ?)
(うん……! わたし、もっと強くなって、みんなを守れるようになりたい!)
「あの、ひよりさん……」
地面に座り込んで二人の手合わせを見ていたスコットが、憧れと、少しの悔しさが混ざった複雑な瞳でひよりを見上げていた。新しい上品な服をひらひらと揺らし、ゴルドに認められて天才的な才能を開花させつつあるひよりの姿が、あまりにも眩しすぎたのだ。
「ひよりさん、す、凄いです……! 僕も、ひよりさんの後ろでただ見てるだけなんて嫌だから……もっと、もっと魔法の練習、頑張ります……っ!」
「うん! 一緒に強くなろうね、スコットくん!」
ひよりはスコットに向かって、とびきりの笑顔で手を差し伸べた。
泥臭く、だけど確実に一歩ずつ。ひよりの新しい『魔法剣士』としての未来と、スコットとの甘酸っぱい絆が、訓練所の高い天井の下で確かに育まれていくのだった。




