リメイク服①
シャランに大目玉を食らった後、言われるがままに魔導温熱石の浮かぶお風呂へと直行したひより。
じんわりと芯から温まるお湯に浸かっているうちに、あんなにズキズキと激しく主張していた二日酔いの頭痛は、嘘のようにすっきりと消え去っていった。
お風呂から上がると、シャランが約束通り、優しくて温かい特製薬膳スープを部屋まで持ってきてくれた。それをフーフーと冷ましながら飲み干すと、まだ少し身体に気だるい重さは残っているものの、すっかり元気がみなぎってきた。
お日様がちょうど空の真上を過ぎ、心地よい午後の光が魔道具店に差し込んできた頃。
「ひよりさん! できたよーっ! お店用の服!」
チリンチリンとお店のドアベルを賑やかに鳴らして、大きな布の包みを抱えたサーシャちゃんが元気いっぱいに飛び込んできた。
「わあ、サーシャちゃん! 待ってたよぉ!」
ひよりは間借りしている奥の空き部屋からパタパタと飛び出してきた。昨日のお姉さんたちにもみくちゃにされた服のままのひよりを見て、サーシャは
「さあさあ、さっそく着替えてみて!」
と、嬉しそうに包みをテーブルの上に広げた。
元のベースとなったのは、シャランのあの布地が少なすぎて目のやり場に困る過激でエッチな衣装だ。
それをサーシャがひよりの体型に合わせてリメイクしたのだ。
「じゃじゃーん! どうかな?」
ひよりはさっそく手渡されたお洋服を抱えて着替え、姿見の鏡の前に立ってみた。
鏡に映った自分の姿を見て、ひよりは
「わあ……っ!」
と目を輝かせた。
「すごい……! ぴったりだよ、サーシャちゃん!」
出来上がったその『お店用の制服』は、元の服がエッチな衣装だった名残もあり、どこか大人の色香が漂う少しエッチなデザインだった。しかし、昨日までの「動くたびにこぼれ落ちそうではらはらする」という危うさは完全に解消されていた。
何より素晴らしいのは、その規格外な爆乳に対する『ホールド力』だった。
サーシャが厳選した、伸縮性と強度に優れた上質な高級生地が使われており、ひよりの豊かな胸を、下からぐっと押し上げるようにして完璧に包み込んでいる。どれだけ激しく動いても、走っても、胸が激しく跳ねない抜群の安定感だ。胸元はしっかりと覆い隠されており、これならシャランの魔道具店でお手伝いをしていても、決して下品には見えない。
――だが、そのホールド力が「完璧すぎた」
胸元が綺麗に隠されているにもかかわらず、生地がひよりの胸の形に寸分の狂いもなく吸い付くようにジャストフィットしているのだ。下から力強く、そして優しく持ち上げられた果実のような爆乳は、これ以上ないほど綺麗な2つの球体のラインを描き、上半身のタイトなシルエットによって、かえってその圧倒的なボリュームと存在感がくっきりと強調されていた。
さらに、胸のすぐ下の位置でキュッと切り替えられたタイトなコルセット風のデザインが、ひよりの細いウエストをこれでもかと引き締めている。
その結果、引き締まったお腹まわりと、その上に鎮座する大迫力のバストとの間に強烈な高低差が生まれ、服を着て隠しているはずなのに、むしろ服を着ていないときよりも視線が釘付けになってしまうという、とんでもなく魅惑的な服が完成してしまっていた。
中身が10歳のひよりは、そんな大人の色仕掛けのような効果には全く気づいていない。
「すごーい! 全然グラグラしないし、ピタッとしててすっごく動きやすいよ! まるでアニメに出てくるかっこいいヒロインのお洋服みたい!」
その場でぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねるひより。そのたびに、完璧にホールドされた胸が、服の生地を限界まで押し広げるようにしてフルフルと弾むように揺れる。
脳内では、一晩中寝不足だったキュアが、一瞬で目を覚まして大パニックの叫び声を上げていた。
(ひ、ひよりぃぃぃぃっ!! 確かに隠れてはいる! 隠れてはいるけど、これじゃあ目がいくなんてもんじゃないよ! 形が! 形がくっきり丸分かりだよ!! 隠すことで逆に凄まじい破壊力になってるよ! ボク、どこに目をやればいいのか本当にわからないよぉっ!!)
(ふえ? キュア、なんで? 動きやすくて最高だよ?)
脳内での純情な男の子の絶叫を他所に、仕立てた張本人であるサーシャは、腰に手を当ててフフンとドヤ顔を決めていた。
「どう? 私の腕にかかれば、どんなに大きな胸だって完璧にホールドしてみせるんだから! これでお店のお手伝いもバッチリ……って、あれれ?」
ふと我に返って、ひよりの全身をまじまじと見つめたサーシャの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「な、なんだか……隠したはずなのに、前よりも胸の形が目立って、すっごくエッチに見えるような……。ウエストが細いから、余計にドカンって強調されてる気がする……。わ、私、とんでもないものを作っちゃったかも……っ!?」
そこへ、店番をしていたシャランが
「どれどれ、できたのかい?」
と奥の部屋を覗き込んできた。そして、ひよりの新しい制服姿を見た瞬間、シャランは持っていた魔導書を危うく落としそうになり、額を手で押さえた。
「サーシャ。あなたの仕立ての技術は天才的ね。服としてのモラルは完璧に守られているわ。……でもね」
シャランは、完璧なホールド力によって芸術的なまでに強調されたひよりの爆乳をギロリと見つめ、呆れたような、だけどどこか楽しそうなため息をついた。
「これじゃあ、明日からお店に来る男のお客さんたちが、ひよりの胸に目を奪われて、まともに魔道具を選べなくなっちゃうじゃないの」
「うぐっ……!」
シャランに痛いところを突かれ、サーシャは腕を組んで「うーん……」と唸りながら考え込み始めた。
(そっか……形がくっきり出すぎちゃうのが問題なんだ。なら、さらに上から隠せばいいんだ!)
サーシャの頭の中で、新しいデザインの閃きがピキーンと弾ける。
「よし! ひよりさん、ごめん! もう一回作り直してくるね!」
「ふえ? もういっかい?」
サーシャはそう言うと、ひよりが
「えっ、えっ?」
と戸惑っている間に、テキパキとお洋服を脱がせて回収し、元の服へと着替えさせた。そして、大事そうにリメイク服を抱え直すと、
「次こそ完璧なお店用の服にしてくるから!」
と言い残して、嵐のように魔道具店を飛び出して帰っていった。
残されたひよりは、ぽかんとサーシャが去ったドアを見つめていたが、すぐにいつものニコニコとした笑顔に戻り、シャランを振り返った。
「お買い物できる方がいいもんね!」
自分の胸が原因だとは1ミリも思っていない、あまりにも呑気なひよりの言葉に、シャランは思わず吹き出してしまい、その綺麗な頭を優しく撫でてあげるのだった。
(……あ、あれ?)
その微笑ましい光景を見つめながら、脳内のキュアはふと、非常に冷静な疑問を抱いていた。
(……よ、よく考えたら、お客さんがまともに魔道具を選べなくなるレベルの『超露出度の高いエッチな服』って、元々はシャランさんの物なんだよね……? ひよりの胸を心配する前に、シャランさん自身はその服で本当に良かったのかな……?)
あまりにも核心を突きすぎた疑問。
だが、それをそのまま口にしてしまえば、中身が小学4年生の純真なひよりに変な知識を与えてしまうかもしれない。
(……うん、この疑問はボクの心の中だけに、そっとしまっておこう……)
キュアは、ひよりには何も言わずに静かに口を閉ざすのだった。




