二軒目とファラ
美味しいお肉料理と、甘くて喉がカァッとする蜂蜜酒をすっかり堪能した頃には、夜もだいぶ更けていた。
一杯の蜂蜜酒をちびちびと舐め尽くしたひよりは、すっかり目がトロンとして、頬を林檎のように真っ赤に染めていた。
「ふにゃあ……なんだか、からだがぽかぽかして、世界が回ってるみたい〜……」
頭を左右にゆらゆらと揺らすひよりは、完全に出来上がった酔っ払い状態だ。中身は10歳の小学4年生、人生で初めて経験するアルコールの威力に、脳みそが完全にフワフワになっていた。
それを見たスコットは、自分のエールのジョッキを置き、心配そうに時計(ギルドの魔導時計)を見た。
「あ、あの……ひよりさん、すっごく酔っちゃってますね。夜も遅いし、ハラハさんの宿に戻ったほうが……」
「なーに言ってるのよスコットくん! お楽しみはこれからじゃない!」
ファラがスコットの肩をバンバンと叩き、妖艶にニヤリと笑った。
「男の子のあんたはここまでよ。ひよりちゃんはあたしが責任を持って預かるから、あんたは大人しく宿に帰って明日の朝に備えなさい。さあ、男の子はバイバイ!」
「えっ!? あ、あの、でも……!」
スコットは後ろ髪を引かれる思いだったが、何よりファラの大人の色気と迫力に気圧され、さらに酔っ払ったひよりが
「スコットくん、ばいばーい、おやすみなさーい……ふふふ」
と無防備に手を振るのを見て、顔を真っ赤にしたままペコペコと頭を下げた。
「う、うう……。じゃあ、ひよりさんをよろしくお願いします! ひよりさん、飲みすぎちゃダメですよ! おやすみなさい!」
こうしてスコットは一軒目の酒場で別れ、小走りで宿へと帰っていった。
「よし、それじゃあひよりちゃん! 『大人の女性』になったお祝いに、最高の二軒目に連れて行ってあげるわ!」
「わぁい、にけんめ〜! ファラおねえちゃん、どこいくのぉ〜?」
千鳥足でファラの腕にしがみつくひより。二十歳の抜群のプロポーション、しかもホールド感ゼロの胸がファラの腕にムギュッと押し当てられているが、ひよりは1ミリも気にしていない。ファラは
「うっわ、やっぱり物凄い破壊力……」
と苦笑しながら、夜の街の少し薄暗い路地へとひよりを引っ張っていった。
たどり着いたのは、妖しげなピンクや紫の魔法の灯火がゆらゆらと揺れる、いかにも隠れ家風の店だった。
看板には、妖精が艶めかしく踊るシルエットが描かれている。
扉を開けると、一軒目の大衆酒場とは打って変わって、ムード満点の甘い香水のような匂いが立ち込めていた。そして――店内で働いている給仕の女性たちの格好を見て、ひよりの脳内が大パニックを起こした。
「いらっしゃいませ、ファラ様」
迎えてくれたお姉さんたちは、なんと下着の一歩手前のような、露出度の高すぎる黒いレースの衣装や、お尻にモフモフの尻尾がついた超ミニスカ姿だった。
豊満な胸元や太ももが惜しげもなく晒されている、ちょっとエッチな『大人の高級キャバクラ(あるいはショーパブ)』のようなお店だったのだ。
ひよりの脳内で、それまで温かく見守っていたキュアが、いつもの優しい口調から一転して大慌てで叫んだ。
(ちょっと待って、ひより!? ここ、明らかに子供が来ちゃいけないタイプのお店だよ! お姉さんたちの服の布地が少なすぎる! 画面にモザイクが必要なやつだよこれ!?)
(ふえぇ……? キュア、なぁに怒ってるのぉ……? わあ、あのお姉さんたち、お洋服がちっちゃくて可愛いねぇ……寒くないのかなぁ……?)
脳内でのキュアの必死のツッコミも、酔っ払ったひよりの耳には右から左へ受け流されてしまう。
「さあ、特等席へどうぞ」
案内されたフカフカのソファに、ひよりは
「うにゃあ」
と沈み込むように座った。すると、セクシーな衣装を着た綺麗なお姉さんたちが、ひよりの見た目の美しさと、自分たちをも凌駕する圧倒的な爆乳に目を輝かせて、こぞって周りに集まってきた。
「あらぁ! ナイトギルドの新しい冒険者さん? すっごく綺麗なお顔……!」
「それに見て、この胸! 触らせてくれないかしら?」
「ふふふ、お姉さんたち、いらっしゃーい……お肉食べるぅ?」
中身が10歳で完全に酔っ払っているひよりは、セクシーなお姉さんたちにベタベタと触られても、ただただ
「くすぐったいよぅ、あははは!」
と無邪気に笑っている。その無防備でピュアな反応が、逆にお店のお姉さんたちのハートを激しく射抜いてしまった。
「なによこの子、めちゃくちゃ可愛んだけど!?」
「もっと甘いジュースとお菓子持ってきて! あたしが奢っちゃう!」
お姉さんたちの黄色い歓声に包まれながら、ひよりの「初めての二軒目」は、完全に予想外の方向へ大盛り上がりを見せていた。
フカフカのソファの中央に座らされたひよりの左右には、さっそく二人のセクシーなお姉さんがぴったりと寄り添っている。一人は背中に薄い妖精の羽をつけたレース衣装の美女、もう一人は頭にモフモフの犬耳をつけた超ミニスカの可愛いお姉さんだ。
「ねえねえ、お名前は? ひよりちゃん? すっごく可愛いお名前! お肌もツヤツヤねぇ」
妖精風のお姉さんが、ひよりの柔らかい頬を指でぷにぷにと突っつく。ひよりはそれがくすぐったくて、
「あははっ、やめて、くすぐったいよぅ〜」
と身をよじる。
その拍子にホールド感ゼロの服から、ひよりの豊かな爆乳がフルフルとダイナミックに揺れ動いた。
「うっわ……近くで見ると本当に凄いわね、このボリューム……。ちょっと触ってもいい?」
犬耳のお姉さんが辛抱たまらんといった様子で、ひよりの胸元に両手を伸ばし、おずおずと優しく揉むように触れてきた。普通の大人の女性なら悲鳴を上げるか赤面するところだが、中身が10歳のひよりは、お酒の力も手伝って完全に「お友達との泥遊び」くらいの感覚だった。
「いいよぉ〜。お姉さんのお耳、可愛いねぇ! こっちも触っていい?」
「えっ!? あ、お耳? いいわよ、どうぞ!」
ひよりは無邪気に笑いながら、犬耳お姉さんの頭に手を伸ばし、そのモフモフした耳を嬉しそうにサワサワ、モニュモニュと捏ね始めた。大人の色気あふれる店内で、ひよりの周りだけが完全に「可愛い動物とのふれあいコーナー」と化している。
(わ、わ、わああああああ!! ひより、ストーーーップ!! 何やってるのさ伝わってくる感覚がダイレクトすぎて僕の心臓が保たないよぉっ!!)
脳内では、キュアが顔を湯気が出るほど真っ赤にして、頭を抱えてのたうち回っていた。感覚を共有しているキュアにとって、お姉さんたちの柔らかい体の感触や、ひよりの胸が揉まれている感覚は、純情な男の子(精神)にはあまりにも刺激が強すぎたのだ。
(むにゃあ……キュア、うるさいぞぉ……お姉さんたち、すっごくいい匂いがするんだよぉ……?)
(匂いの問題じゃないってば! ああもう、お姉さんたちも、そんな無防備なひよりをハグしないで!)
「あ〜ん、もう本当に癒やされるわぁ、この子! ギルドの男たちの相手より百倍楽しい!」
妖精お姉さんがひよりを後ろからギュッと抱きしめ、自分の豊かな胸をひよりの背中に押し当てる。
ひよりは「わぁ、お姉さんもフカフカだぁ〜」と、すっかりご満悦で身を委ねていた。
テーブルの上には、お姉さんたちが「貢ぎ物」として持ってきた、果物がたっぷり乗った特製の甘いパフェや、色鮮やかなフルーツジュースが所狭しと並べられている。
「ひよりちゃん、これあ〜んしてあげる。はい、口を開けて?」
「あ、あ〜ん……もぐもぐ。んんーっ! 甘くておいしぃー!」
完全に甘やかされモード全開のひより。高級なお菓子を次々と口に運ばれ、お姫様のようなVIP待遇を満喫している。
ファラは少し離れた席でジョッキを傾けながら、お店のトップ給仕たちを瞬時にメロメロにして手なずけてしまったひよりを見て、呆れ半分、感心半分でニヤニヤと笑っていた。
「まさか、うちの店の看板娘たちが総出で新人の女の子をもてなすハメになるとはね。ひよりちゃん、あんた本当に大物だわ。天然のタラシっていうのかしら?」
「ふふふ……ファラおねえちゃん、ここ、すっごくたのしいねぇ……」
ひよりは甘いジュースを飲み干し、お腹もいっぱいになって、すっかり幸福感に包まれていた。お酒の酔いと、お姉さんたちの温かいハグ、そして店内の心地よい音楽が混ざり合い、だんだんとまぶたが重くなってくる。
「あら、ひよりちゃん、眠くなっちゃった?」
「うん……なんだか、ねむねむ、だよぉ……」
ひよりは犬耳お姉さんの柔らかい太ももに、ごく自然に頭を乗せて「膝枕」の体勢に入った。
「きゃーっ! あたしの太もも使ってくれた! 今日はもう朝までここで寝ていっていいからね!?」
と犬耳お姉さんが大興奮でひよりの髪を優しく撫で始める。
(はぁ……もう勝手にしておくれ……。でも、ひよりが楽しそうなら、まあ、いっか……)
脳内のキュアも、呆れたような優しい声でクスクスと笑った。
妖しげな魔法の光が揺れるちょっとエッチな大人の店で、中身10歳のひよりは、最高に甘くて贅沢な「二軒目の夜」を満喫し尽くし、幸せそうな寝息を立て始めるのだった。




