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⭐️キュアアップ!✨  作者: モノクロ無彩色


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酒場とファラ

鬼のゴルドによる地獄の講習がようやく終わり、すっかり夕闇に包まれたハーティーの町。


全身クタクタ、お腹はペコペコになったひよりを気遣うように、スコットが優しく声をかけてくれた。


「ひよりさん、今日は僕がこの町で一番賑やかな酒場に案内するよ。美味しいお肉料理もあるんだ」


「わあ、本当!? 行きたい行きたい!」


この町にやってきたばかりのひよりは、もちろんまだどこのお店も行ったことがない。スコットの頼もしい提案に、ひよりは20歳の大人の姿のまま、嬉しそうに何度も頷いた。


スコットに連れられてやってきたのは、多くの冒険者たちが集う大きな酒場だった。

木製の重い扉を開けた瞬間、ひよりは


「うわぁ……!」


と思わず目を丸くした。天井の高い大ホール。中からは、ワイワイ、ガヤガヤと地鳴りのような騒がしい声が響いてくる。たくさんのテーブルが並び大勢の男たちが大きなジョッキを片手に大笑いし、肉を喰らい、今日の戦果を自慢し合っている。熱気と酒の匂い、そして香ばしい焼き肉の煙が店内に充満していた。


中身が10歳のひよりにとって、それはテレビのアニメでしか見たことのない、本物の『大人の世界』そのものだった。


「すごい活気だね……!」


とドキドキしながら、スコットの後ろについて空いている席へと向かうひより。

だが、ただでさえ美しい20歳の容姿に、まだホールド感のない服からこぼれんばかりの爆乳を湛えたひよりの姿は、薄暗い酒場の中でもめちゃくちゃに目立っていた。


案の定、不埒な視線を送ってきた酔っ払いの大男たちが、にやにやと下品な笑みを浮かべて二人の行く手を遮った。


「おぅおぅ、見ねえ顔の綺麗なお姉ちゃんだな! そんな頼りねえ細身の坊やと一緒じゃつまらねえだろ? 俺たちとあっちの席で、楽しく濃厚な大人の時間を過ごそうや!」


ガシッと道を塞がれ、ひよりは思わず


「ひゃっ……」


と身をすくませる。

するとその瞬間、気弱なスコットがガタガタと膝を震わせながらも、大慌てでひよりの前に立ちはだかった。


「や、やめてください……っ! 彼女は、僕の、大切な仲間です! どいてください!」


必死に声を張り上げてひよりをかばおうとするスコット。中身は15歳の少年だが、一生懸命に自分を守ろうとしてくれるその背中に、ひよりの10歳の心臓がトクン、と小さく跳ねた。


しかし、酔っ払いの一人が、


「あぁん? 生意気なガキが、一丁前に男の顔してんじゃねえよ!」


と拳を振り上げる。

――その時だった。


「はいはい、そこまで。お酒に呑まれて新人に八つ当たりなんて、みっともないわよ、おじさんたち」


後ろから聞こえてきたのは、鈴を転がすような、だけどどこか色っぽい冷ややかな声。

振り返ると、そこにいたのは先ほどの訓練でゴルドの攻撃をしなやかに躱してみせた、あの斥候スカウトの女性だった。


彼女はフッと妖艶に微笑むと、腰のナイフの柄をわざとらしくトントンと叩き、酔っ払いたちを鋭い眼光で射抜いた。


「この子たち、あの鬼のゴルドさんに目を付けられてる特待生よ? あんたたち、ゴルドさんに『あたしの可愛い同期を虐めました』って報告されたいわけ?」


「ゴ、ゴルド……っ!?」


その名前を聞いた瞬間、酔っ払いたちは一気に青ざめた。ギルド最強の鬼教官の顔が脳裏をよぎったのだろう。


「ケッ……縁起が悪ぃ、他へ行くぞ」


と、男たちは蜘蛛の子を散らすように大慌てで引き下がっていった。


「ふぅ、助かったよ! ありがとう、お姉さん!」


ひよりがパッと顔を輝かせてお礼を言うと、女性は


「いいのよ、ゴルドの地獄を生き延びた仲間だもん」


とウィンクしてみせた。


「せっかくだから、あたしの席で一緒に飲みましょ? 奢ってあげるわ」


「うん!」


こうして三人で奥の少し落ち着いた席に座ることになった。木製のテーブルを囲んで一息ついたところで、斥候の女性が


「そういえば」


と笑顔で手を差し出してきた。


「あたしたち、まだお互いに名前も名乗ってなかったわね。せっかくだから自己紹介しましょ。あたしはファラ。見ての通り、罠解除や不意打ちが得意な斥候スカウトをやってるわ。よろしくね」


ひよりはファラの手をぎゅっと握り返し、元気に自己紹介をした。


「わたしはひよりです! 魔法使い……なんだけど、さっきおっちゃんに短剣の使い方も習いました! よろしくお願いします、ファラさん!」


続いてスコットも、少し照れくさそうに頭を下げた。


「僕はスコットっていいます。ハイドロ……じゃなくて、水魔法の見習いをしています。さっきは助けてくれて、本当にありがとうございました、ファラさん」


「ひよりちゃんに、スコットくんね。改めてよろしく。はい、それじゃあお疲れ様の乾杯!」


運ばれてきた飲み物のジョッキを合わせる。スコットは普通のエール、ファラは度数の強そうな琥珀色のお酒を喉に流し込む中、ファラはひよりの前にある黄金色のお酒を指差した。


「ひよりちゃんには、これがおすすめよ。この店自慢の『蜂蜜酒ミード』」


甘い蜂蜜の香りがふわりと漂うお酒に、ひよりは


「わあ、すごいいい匂い……!」


と目を輝かせた。しかし、大人の体になっていても、中身は小学4年生。お酒に対する本能的な恐怖があり、ひよりは恐る恐る、お皿のスープを確かめる子猫のように、舌先でチロリ、チロリと蜂蜜酒を「舐めるよう」に飲み始めた。


それを見たファラが、一瞬きょとんとした後、お腹を抱えて大爆笑した。


「あはははは! なにそれ、ウケる! ひよりちゃんってば、そんなにダイナミックで色っぽい体つきをしてるのに、お酒の飲み方はまるで小さな子供じゃない!」


「う、うぅ……っ!」


ファラにからかわれ、ひよりは顔を真っ赤に染めて、ぷくーっと両頬を膨らませた。そして、10歳児の素直さのまま、恥ずかしそうに抗議の声を上げた。


「だって……! 甘くて美味しいけど、喉を通るとき、カァッて熱いんだもん……っ!」


「あはは、熱いって! 可愛すぎるわよ、あなた!」


ファラはさらに大ウケしてひよりの背中をバンバンと叩く。

その隣で、スコットは「熱いんだもん」と子供のように拗ねるひよりの無防備な可愛らしさに、完全に心を撃ち抜かれていた。顔を耳まで真っ赤にして完全にフリーズしている。


ファラはひとしきり笑った後、ふぅと息をついてジョッキを置いた。


「それにしてもさ。あんたたち、よくあのゴルドさんの講習に顔を高く上げてついてこれたわね。あたしなんて、今日で受けるの三回目だったのよ?」


「えっ……三回目?」


ひよりは蜂蜜酒のカップを持ったまま、目を丸くした。スコットも驚いたように顔を上げる。


「あの……僕たち、ギルドの受付で『初心者講習』だって聞いて、それで参加したんですけど……違うんですか?」


スコットが不思議そうに言うと、ファラはニヤリと笑った。


「ハハ、冗談でしょ!? あれが初心者講習なわけないじゃない! 周りにいたあたしたち五人を見なさいよ。大剣のバカも、大盾のゴツいのも、あのスカしたイケメンも、みんなひよりちゃんと同じ20歳前後ぐらいでしょ? あたしたち、もう数年は冒険者をやってて、それぞれの武器の技量がそれなりに整った連中よ?」


「ええええっ!?」


ひよりは思わず大きな声を上げてしまった。てっきりみんな、自分たちと同じ同期の新人なのだと思い込んでいたのだ。


ファラは声を潜めて教えてくれた。


「ゴルドさんがやるあの講習はね、ある程度経験を積んだ中堅冒険者に課される、一種の『試練』みたいなものなのよ。あの鬼の出す無理難題をクリアするか、手痛い教訓を叩き込まれて合格をもらわないと、この街じゃいっぱしの冒険者として認められないの。だから――ゴルドさんの試練を通過しないといっぱしの冒険者にはなれないのよ。ここにいる冒険者はみーんな、一度はゴルドさんに完全に叩きのめされた人たちばかりなのよ。だからみんな、あの人の前じゃ大人しくなるの」


「そうだったんだ……」


スコットが納得したように呟いた。自分が一撃でボコボコにされたのも、相手がそういうレベルのベテランを相手にする試練だったからだと分かったからだ。


しかし、ひよりは余計に混乱してしまい、自分の胸元をきゅっと押さえた。


「でも……でもね、ファラさん。わたし、本当に、本当に今日が初めての初心者なの。剣なんて持ったこともなかったし、魔法だって、さっき初めて覚えたばかりで……」


「え……? 嘘でしょ?」


今度はファラが本気で目を丸くした。ひよりの綺麗な手を引き、手のひらのマメの無さを確かめると、信じられないといった様子で頭を抱えた。


「マジじゃない……。じゃあ、あんた、本当に完全な素人であのゴルドさんの超至近距離からの突きをひらりと躱したの!? なにその化け物じみた運動神経……。でも動きはよかったわよ。それと魔法職は特別待遇よ。貴重だし死なれちゃこまるのよね。だからゴルドさんも、あんたたち二人には最初からあの厳しい試練を受けさせて、何が何でも生き残る術を叩き込もうとしたんだわ」


「魔法職は、特別待遇……死なれちゃ困る、か」


スコットがその言葉を噛み締めるように呟く。責任の重さを感じると同時に、ひよりを守るためにもっと強くならなければ、という決意がその瞳に宿っていく。


頭の中で、キュアが誇らしげに、そして優しい男の子口調で話しかけてきた。


(へえ、やっぱりひよりは特別だね! 完全な素人なのにベテラン向けの試練に放り込まれて、しかもファラさんに認められちゃうなんて。スコットくんも、ひよりの凄さに刺激されて、すごくやる気になってるみたいだしね)


(うん……!これからみんなに死なれちゃ困るって思ってもらえるくらい、強くなって大切な仲間を守りたいな……!)


ひよりは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、また蜂蜜酒をチロリと舐めた。やっぱり喉を通るときはカァッと熱いけれど、今度はその熱さが、なんだかとても心地よく感じられた。


「よし! そうと分かれば、今日からあたしたちはゴルドの地獄を共にした戦友よ! ガンガン飲んで食べなさい!」


ファラが豪快に笑って追加の肉料理を注文する。ワイワイと騒がしい酒場の熱気の中で、ひよりとスコット、そして新しい先輩冒険者ファラとの楽しい夜は、賑やかに更けていくのだった。

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