透ける魔法少女
ハラハは床に落とした資料を拾い上げるのも忘れ、目の前に立つひよりと、彼女が着ているドレスを何度も何度も見比べた。その鋭い目が、職人としての冷静さを取り戻すにつれて、徐々に険しいものへと変わっていく。
「……ダメだ。これは完全に衣装が負けてる。
っていうか、これで広場に出たら一発で公然わいせつ罪で引っかかるぞ……」
ハラハが頭を抱えてボソッと呟くと、ひよりは首を傾げて間の抜けた声をあげた。
「へっ? こうぜん……わい……なに?」
「公然わいせつ罪だよ! 街の衛兵にソッコーで捕まっちまうってことだ!」
ハラハは机をバンと叩き、身を乗り出して早口で熱弁を振るい始めた。
「いいか、お嬢ちゃん。俺の話を聞け。
今の状態はな、お前のその規格外のワガママボディのせいで、衣装の持つ『魔法少女としての可愛さ』が完全に死んじまってるんだ。
今みたいに全開でドカンと露出するんじゃなくて、衣装で一度ちゃんと隠す!
その上で、動きに合わせて『たまにチラチラ見える』……これこそが至高であり、男を狂わせる王道なんだよ!」
『こいつ急に早口のオタクみたいになった……!
でも言ってることは大正解だよひより!』
脳内でキュアが激しくハラハの意見に同意して拍手を送る。
ハラハは衣装のあちこちを指差しながら、プロの縫製職人としてのプランをまくし立てた。
「まず、基本として胸はしっかり隠す! 今のままだと歩くたびに零れ落ちそうだ。
それからスカート丈だ。今のだと少しでも動き回ったらお尻が完全に見えちまうからダメだ。裾を足して、膝上20cmの絶妙なラインにする!
これなら普通に立っていれば健全だが、屈んだり動いたりした時に、たまに太ももの奥が見えるくらいのちょうどいい塩梅になる!」
「え~、でもキュアアップはもっと胸元が開いてるよ?」
不満げに唇を尖らせるひよりに、ハラハは「それが素人考えなんだよ!」と一喝した。
「ただ隠すだけじゃねえ。胸元は隠すが、生地を『シースルー素材』に変えるんだ。お前のその形が良すぎるバストの輪郭と深い谷間が、薄いレースの向こう側にうっすらと透けて見えるように仕立て直す。
……これだ! これなら直球の露出じゃないから公然わいせつには当たらないはずだし、何より隠されている分、男たちの妄想を爆発させて客寄せ効果は10倍になる!」
ハラハの目は、完全に「最高の衣装を作り上げる職人」の輝きを帯びていた。
『シースルーも大概エロい気がするけど、さっきの丸出し状態に比べたら100倍マシだよ! ハラハさん、頼むからその方向で改造してくれー!』
キュアが心の中で必死に祈る中、
ひよりは「う、うーん……? よくわからないけど、ハラハさんがもっと素敵にしてくれるの?」
と、ハラハの熱量に圧倒されて大人しく頷くのだった。
【ハラハの最高傑作】
丸一時間、ものすごい集中力でミシンを走らせ、魔法の糸を操っていたハラハが、ついに大きなハサミをジャキリと置いて声をあげた。
「できた……! 我ながら、これ以上ない最高傑作だ!」
それまでの間、ひよりは倉庫の片隅で「これ、キラキラしてて綺麗だなぁ」「このライター、カチッて音がする!」と、色鮮やかな景品の山をポンポンと触ったり並べ替えたりしながら、退屈することなく無邪気に遊んでいた。
ハラハの声を聞いたひよりは、
「あ、できたんだ!」
とぴょこんと勢いよく立ち上がり、元の魔法使いの裾を揺らしながらハラハの元へとトトトッと駆け寄った。
「見せて見せて! どんな風になったの?」
ハラハが誇らしげに掲げた新たな衣装は、一見するとさっきのキュアアップ風の華やかな雰囲気はそのままだったが、明らかに全体の布の量が増えているのが分かった。
スカスカだった胸元や、短すぎたスカートに、絶妙なバランスで新たな生地が足されている。
頭の中のキュアも、その仕上がりを見てホッと胸をなでおろした。
『よかったぁ……! ちゃんと服の形をしてるよ、ひより。これなら街中で歩いても、衛兵に捕まる心配はなさそうだね』
「わぁ、本当だ! 布がいっぱい増えてるね。……よし、さっそく着てみるね!」
ひよりは新しく生まれ変わった最高傑作のドレスを両手で受け取ると、嬉しそうに再び棚の脇の着替えブースへとパタパタと入っていった。
着替えブースのカーテンがシャッと閉まると、再びカサカサと衣擦れの音が狭い空間に響き渡った。
「ええっと、まずはこっちに腕を通して……うん、今度は胸のところがきつくないや!」
ブースの中では、ひよりが新しいドレスに身体を滑り込ませていた。ハラハの手によってミリ単位で補正されたコルセットは、ひよりのワガママボディを優しく、かつ完璧な位置へと誘導していく。
「あ、この胸の上のところ、お肌が透けて見えておもしろーい!」
ひよりは自分の胸元を指でつんつんしながら、新しく追加されたシースルー素材の手触りに声をあげた。
『どれどれ……? 隙間から丸見えになるよりは、薄皮一枚でも布がある方がキュアとしては安心なんだけど……』
脳内のキュアがハラハの職人技をドキドキしながら見守る中、ひよりはスカートの形をパタパタと整えて、勢いよくカーテンを開けた。
「ハラハさん、お待たせ! 今度こそ、完成だよ!」
ブースから一歩踏み出したひよりの姿を見て、ハラハは、
「……完璧だ」
と、深く満足そうに大きく息を吐き出した。
そこに現れたのは、さっきまでの破廉恥な丸出し衣装とは一線を画す、気品と破壊的なエロティシズムが奇跡的なバランスで融合した「究極の魔法少女ドレス」だった。
問題の胸元は、鎖骨からみぞおちの直上まで、目が細かく滑らかな最高級のシースルーレースでしっかりと覆われている。直射日光のような生々しい肌の露出は防がれているものの、ひよりの発育抜群なバストがレースを内側から丸く、パツパツに押し広げていた。
そのため、服に負けない圧倒的なボリュームの双丘と、その中央に深く刻まれた肉感的な谷間のシルエットが、薄布の向こう側にこれでもかと鮮明に浮かび上がっている。
そして、ハラハが最もこだわったスカート丈は、ひよりのすらりと伸びた健康的で白い太ももを、絶妙に「膝上20cm」のラインで包み込んでいた。
『わぁ……! すごいよひより、さっきよりずっと上品で、本当のアニメの衣装みたいに可愛い!』
キュアが思わず歓声をあげる。
だが、ハラハの計算はそこからだった。
ひよりが「見てみてー!」と嬉しそうにその場で一回転すると、フリルスカートがふわリと大きく翻り、その遠心力で膝上20cmの境界線が一瞬だけ跳ね上がった。
むっちりとした太ももの付け根と、安産型の大きなヒップの柔らかな肉のラインが、動きに合わせて「チラリ」と眩しく顔を覗かせる。
「これなら動き回ってもすぐには見えないし、でもアンタがストーンバレットを撃つために前屈みになったり、景品を渡すためにしゃがんだりした瞬間……男どもの視線が釘付けになるって塩梅だ」
ハラハはフッと不敵な笑みを浮かべ、天才職人の顔で腕を組んだ。
「うん! わたし、こっちの方が動きやすくて好き! 胸のところもぽかぽかして落ち着くもん!」
大人の色気をこれでもかと放ちながらも、ひよりは完全に無自覚なまま、鏡に映る「透ける魔法少女」の自分にうっとりと目を輝かせてポーズを決めるのだった。
「ふふん、これで本番もバッチリだね! キュア、わたし格好いいでしょ?」
鏡の前で何度もスカートを翻し、嬉しそうにポーズを決めるひより。そのたびに、膝上20cmの裾から健康的な太ももがチラチラと覗き、ハラハの狙い通りの「健全と不健全の黄金比率」が倉庫の中に体現されていた。
頭の中のキュアも、さっきの丸出し状態から見事に軌道修正された姿を見て、ようやく深く安堵のため息をついた。
『うん、これなら完璧だよひより! さっきよりずっと上品だし、何よりひよりのスタイルの良さと可愛さがしっかり活きてる。ハラハさん、本当に凄い職人さんだね』
「うん! ハラハさん、本当にありがとう! わたし、このお洋服すっごく気に入っちゃった!」
ひよりが満面の笑みで振り返ると、ハラハはポリポリと無精髭を掻きながら、どこか照れくさそうにフッと笑った。
「おう、気に入ってくれたなら何よりだ。お前のその抜群のスタイルがあってこその衣装だからな。……よし、衣装もバッチリ決まったことだし、そろそろお祭り広場へ移動するぞ。荷物の搬入を手伝ってくれ」
「はーい!」
ひよりは元気よく返事をすると、お祭りの屋台に並べる景品やマトの箱を、ハラハと一緒に手際よくまとめ始めた。
自分で地図を見てここまで来られた自信と、憧れの魔法少女のようなお祭り衣装を身にまとった高揚感で、ひよりの心は早くも本番への期待でワクワクと弾んでいた。




