物置の片付けと、世知辛い思い出
「うーん、よし。それじゃあ一気に片付けちゃうわよ!」
シャリンの掛け声とともに、ひよりの部屋の片付けが始まった。
初めは天井まで荷物が満杯で絶望していたひよりだったが、実際に手を付けてみると、荷物が激しく積み上がっていたのはドアの手前側だけで、奥の方は意外とそこまで密集していないことが分かった。
とはいえ、床が見えないほど足の踏み場がないのは確かだ。どれが本当に必要なものなのか10歳のひよりには判断がつかないため、一品ずつシャリンに見せながら捨てるかどうかの判断をお願いすることにした。
「シャリンさん、これは?」
「いらない。」
「じゃあ、この綺麗な箱は?」
「あー、もう使わない。」
「こっちの派手な飾りは?」
「流行遅れ。いらないわ」
「この不思議な形の瓶は?」
「これは……あー、中身がもうダメになってるね。いらない」
バサバサと容赦なくゴミの山に仕分けされていくのを見て、ひよりは内心で
(あれ? もしかしてここにあるのって、いらないものばかりじゃないのかな?)
とちょっぴり呆れてしまった。
けれど、しばらくするとシャリンが
「あ、ちょっと待って。それは置いておいて。大事なものだから」
と引き止めるものが出てきた。しかし、ひよりの目から見ると、それはどう見てもただの埃をかぶった「ガラクタの機械の置物」にしか見えない。
頭の中で、キュアがロマンチックに語りかけてきた。
『ひより、物には見た目だけで判断できない“思い出”っていうものがあるんだよ。きっとシャリンさんにとって、素敵な思い出がこれには詰まっているんだよ』
「思い出……!」
その言葉にひよりは胸をときめかせ、目をキラキラと輝かせながらシャリンに尋ねた。
「シャリンさん! これ、どんな素敵な思い出があるものなんですか?」
するとシャリンは、遠い目をしてげんなりとした声を出す。
「これ? ……これはね、昔私が『勇者』って呼ばれてた男から貰った、異世界の機械だよ。何に使うかもよくわからないんだけど、『俺の大事なコレクションだから、しばらく持っといてくれ』って言われて預かってるんだよ」
「うわぁ……! 勇者様から大切な物を託されるなんて、やっぱりすっごく素敵なロマンチックなお話……!」
ひよりがうっとりとした表情を浮かべた瞬間、シャリンはピシャリと言い放った。
「いや、違うね。あいつ、私の部屋をただの『無料の倉庫』だと思ってるんだと思うよ。何年も引き取りに来やしないんだから」
「うわぁ……っ。倉庫って、ひどい話……」
あまりに現実的で世知辛い大人の事情に、ひよりは一気に引いてしまった。頭の中のキュアも、
『ま、まぁ……人生そんなこともあるさ……』
と引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。
そんなこんなで、さっき貰った服の束以外は、ほとんどすべての荷物を捨てることになった。
「店の前に出しておけば、明日の朝に回収業者が持っていくから」
と言われ、ひよりはそこから1時間、大人の身体をフル稼働させて荷物を外へ運び出した。
せっせと動くたびに、藍色のローブの中で巨大な爆乳が
「どるんっ、ぶるんっ」
と凄まじい重量感で暴れまわる。全身が汗でじっとりと濡れ、ローブが柔らかい肌にぴたりと張り付いて、ただ掃除をしているだけなのに、言葉にできないほどエロティックな熱気がひよりの身体から立ち上っていた。
【幸せな夕食と、テーブルの上のマナー】
ひよりが汗だくになって戻ってくると、部屋はすっかり荷物がなくなって見違えるほど広くなっていた。
シャリンがその間に料理をしてくれたようで、ダイニングには信じられないほど良い匂いが漂っている。
「はい、お疲れ様。仕上げよ」
シャリンがパチンと指を鳴らすと、生活魔法の『クリーン』がひよりの身体と部屋全体を包み込んだ。一瞬にして汗や埃が消え去り、ひよりの肌はまるで風呂上がりのように、すべすべでピカピカの状態に生まれ変わる。
「すごーい! さっぱりしたぁ!」
スッキリとした気持ちで、ひよりはダイニングのテーブルについた。
目の前には、お肉や野菜がたっぷり使われた美味しそうな異世界の家庭料理が並んでいる。
シャリンと一緒に「いただきます」をして、パクリと口に運んだ。
「……っ、すごく美味しいっ!」
じゅわりと広がるお肉の旨味に、ひよりは大喜びで味わって食べた。その純粋に喜ぶ姿を見て、シャリンは満足そうに目を細めて笑う。
「ふふ、ひより。あんた、食べてるときは本当に子供みたいだね」
「大人だよ……。半分、だけど」
ひよりは小学校でやった『1/2成人式』のことを思い出しながら、もぐもぐと口を動かして少しむくれた。中身はまだ10歳の子供なのだ。
シャリンはお茶を飲みながら、ひよりの姿勢を見て、ふと思いついたように人指し指を立てた。
「あ、そうそう。仕事のことは明日教えるからいいんだけどさ。ひより、ご飯を食べるときに、その胸をテーブルの上にドスンと置くのは、男の前では『マナー違反』だからね。……まあ、わざと男を釣るためにやってもいいんだけどさ」
「えっ……?」
ひよりはまたしても訳が分からなくなり、ピキッと固まった。
言われてみれば、自分の胸があまりにも大きくて重いため、無意識のうちに机の端に「むにゅん」と乗っけるようにして重みを預けてしまっていたのだ。
柔らかい肉が机に押し潰され、とんでもない迫力の谷間が形成されている。
ひよりはすかさず、心の中で相棒にSOSを送った。
(キュア! どっち!? 机に置くのはいいの? 悪いの?)
『……状況次第だね。今のひよりにはその辺の細かい駆け引きはわからないだろうから、基本は“置かない”ってことでいいんじゃないか?』
(えぇ〜、でもこれ、すっごく重いから机に置きたいんだもん……)
ひよりが心の中でぶつぶつ言っていると、シャリンがくすくすと笑いながら助け舟を出してくれた。
「うーん、そうね。じゃあ、明日の『店番』の時は、カウンターの台の上に胸を乗っけてもいいわよ。その方が楽でしょう?」
「うん! わかった!」
ひよりは嬉しそうに頷いた。
だが、頭の中のキュアは、シャリンの言葉に内心で冷や汗を流していた。
(店番の時はカウンターに乗せていい……? ちょっと待て、この店の制服(エッチな古着)を着て、あのカウンターにこのおっぱいを乗せて接客するってことか!? もしかしてこの店、ちゃんとした魔道具屋のフリをして、それが目的の店なのか……!? いや、店主のシャリンさんの単なる悪趣味か……?)
不安が募るキュアだったが、ひよりがすっかり納得してしまっているので、
(まぁ……来るお客さんによるか。本当にヤバそうな奴が来たら、その時に僕が注意すればいいしな)
と、考えるのを諦めた。




