第90話『世界の真理』
タクミが目を開けたとき。
そこは、見覚えのある空間だった。
どこまでも白い世界。
地面も空も境界がなく、ただ静寂だけが広がっている。
まるで、世界そのものが止まっているかのような場所。
「よく来れましたね」
背後から声がした。
振り向く。
そこに立っていたのは――
銀髪の少女だった。
透き通るような白い肌。
静かな微笑み。
タクミは一瞬目を丸くしてから、苦笑した。
「……あー」
そして頭をかく。
「久しぶりだな、女神様」
少女はくすっと笑う。
「覚えていてくれましたか」
「そりゃな」
タクミは肩をすくめる。
「俺をこの世界に送り込んだ張本人だし」
女神は静かに頷いた。
「その通りです」
そして、ゆっくりと言う。
「あなたは成し遂げました」
白い空間に光の粒が現れる。
四つの光。
それは形を変え、象徴となる。
森。
山。
海。
空。
「この世界を支える王」
「森の王」
「山の王」
「海の王」
「そして――空の王」
四つの光がゆっくりと巡る。
「それらすべてを打ち倒した者」
女神はタクミをまっすぐ見つめた。
「それは、この世界でただ一人」
「あなたです」
タクミは少し照れくさそうに笑った。
「まあ、成り行きだけどな」
「謙遜する必要はありません」
女神は静かに言う。
「それがどれほどの偉業か、あなた自身が一番理解しているはずです」
タクミは小さく息を吐く。
「……まあな」
女神は続ける。
「王とは」
「この世界を支える存在です」
光がゆっくりと広がる。
「森の循環」
「山の大地」
「海の生命」
「空の均衡」
「それぞれが、この世界の秩序を保っています」
タクミは腕を組む。
「なるほどな」
「だから"支え"だったのか」
女神は頷いた。
「ええ」
そして静かに告げる。
「王をすべて打ち倒した者は」
「世界の真理に触れる資格を得ます」
タクミの眉がわずかに動く。
「世界の真理、ね」
女神は一歩近づく。
「簡単に言えば」
ほんの少し微笑む。
「世界を作り変える権利です」
タクミは瞬きをした。
「……は?」
白い空間が変化する。
光が集まり、景色を作る。
そこには――
新しい世界が広がっていた。
街。
人々。
穏やかな空。
子供たちの笑い声。
そして。
そこには――魔物がいなかった。
タクミは目を細める。
女神が言う。
「あなたはこの世界を作り変えることができます」
「魔物のいない世界」
景色が変わる。
人々は穏やかに暮らしている。
戦う者もいない。
恐れる者もいない。
「争いのない世界」
王もいない。
貴族もいない。
誰も偉くない。
誰も命令しない。
誰も支配しない。
「完全に平等な世界です」
タクミは黙って見ていた。
女神は続ける。
「身分差もありません」
「生まれによる格差もありません」
「誰も蔑まれません」
「誰も搾取されません」
「誰も苦しみません」
静かな声。
「誰もが同じ価値を持つ世界です」
タクミは思わず呟く。
「……すごいな」
本心だった。
「魔物がいない」
「争いもない」
「身分差もない」
タクミは苦笑する。
「めちゃくちゃ良い世界じゃん」
女神は静かに微笑む。
「そうですね」
そして言う。
「多くの者がそう思うでしょう」
タクミは腕を組んで考える。
「つまり」
女神を見る。
「俺が“そうする”って言えば」
「この世界はそうなる?」
女神は頷く。
「はい」
「今の世界は消え」
「新しい世界が生まれます」
タクミは少し笑った。
「……とんでもないな」
そして空を見上げる。
リナの顔が頭をよぎる。
バーグ。
ギルド。
街。
色んな人の顔。
そして。
タクミは呟く。
「でもまあ」
「それが本当に出来るなら」
少し考えてから言う。
「みんな嬉しいよな」
女神は静かに見ている。
タクミはもう一度景色を見る。
平和な世界。
争いのない世界。
誰も傷つかない世界。
女神がゆっくりと言った。
「あなたは選ぶことができます」
白い空間が静まり返る。
そして。
女神は穏やかな声で問いかけた。
「この世界を」
「作り変えますか?」
タクミは少し息を吐いた。
「……そうだな」
答えようとする。
その瞬間。
――――。
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