第86話『外れの先にある未来』
アストラヴェルが低く唸った。
黄金の瞳がタクミを見据える。
そして次の瞬間――
巨体が消えた。
ドォン!!
地面を蹴る音。
爪が振り下ろされる。
タクミは横へ動こうとする。
――ゾワッ。
(横はダメ)
前。
――ゾワッ。
(前もダメ)
コンマ数秒。
思考が弾ける。
その場で跳ぶ。
本来ならあり得ない選択。
地上戦で、ドラゴン相手に。
だが――
次の瞬間。
巨大な尾が地面を薙ぎ払った。
ドォォォン!!
岩が吹き飛ぶ。
タクミはその尾を空中で踏んだ。
「……!」
アストラヴェルの瞳が揺れる。
そのまま跳び越える。
着地。
振り向きざまに斬る。
シルヴァリオン。
ザンッ!!
鱗が裂けた。
即座に反撃。
噛みつき。
巨大な顎。
タクミは剣を振りかぶる。
――ゾワッ。
(……違う)
この攻撃はダメだ。
タクミは剣を止めた。
代わりに左腕を突き出す。
フェンリルの魔核。
盾。
ドォン!!
顎がぶつかる。
衝撃が腕を貫く。
だが――
止まらない。
タクミはそのまま押し込んだ。
「っ!」
盾で殴る。
常識外の選択。
だが悪寒はない。
ガンッ!!
鈍い音。
アストラヴェルの顎が逸れる。
その隙。
シルヴァリオン。
ザンッ!!
さらに一撃。
血が飛ぶ。
アストラヴェルが後退する。
だが止まらない。
すぐに突進。
圧倒的な速度。
爪がとんでくる。
タクミは回避しようとする。
――ゾワッ。
(回避はダメ)
(なら)
コンマ数秒。
踏み込む。
爪の内側。
完全な死角。
アストラヴェルの瞳が揺れる。
『……!』
タクミは剣を振るう。
その瞬間。
――ゾワッ。
(攻撃はダメ)
止める。
即座に切り替える。
しゃがむ。
直後――
翼が叩きつけられた。
ドォォォン!!
地面が砕ける。
もし振り抜いていれば。
確実に潰されていた。
タクミはその翼を蹴る。
跳躍。
空中で体をひねる。
本来あり得ない体勢。
だが――
悪寒はない。
シルヴァリオンが振り抜かれる。
ザンッ!!
肩口が裂ける。
巨体が揺れた。
着地。
即座に離脱。
アストラヴェルは明確に困惑していた。
『……』
黄金の瞳が細くなる。
『読めないな』
タクミの動き。
それは戦術ではない。
回避でもない。
攻撃をやめる。
盾で殴る。
跳ぶ。
踏み込む。
常識では理解できない。
だが――
すべてが正解。
タクミの思考は加速する。
(右はダメ)
(攻撃はダメ)
(防御はダメ)
(なら――跳ぶ)
コンマ数秒での思考と選択。
外れの行動が分かる。
ならば。
残る行動は――
すべて生き残る選択。
タクミは息を吐いた。
体は限界に近い。
肋骨が軋む。
腕は痺れている。
それでも。
目は静かに光っていた。
アストラヴェルが低く言う。
『……なるほど』
黄金の瞳がタクミを捉える。
『その力』
『確かに厄介だ』
巨大な爪が構えられる。
『だが』
わずかな間。
『終わらせよう』
タクミはシルヴァリオンを握り直す。
悪寒は、まだ来ない。
つまり――
まだ終わりではない。
風が吹く。
天裂の断崖。
その中央で。
二人が、同時に動く。
次の一撃。
それが――
決着になることは2人ともわかっていた。
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