第84話『最適解の先』
「ラッキーフロー」
瞬間――
世界が整理される。
動き。
距離。
角度。
すべてが繋がる。
最適解。
タクミの体が動いた。
爪をすり抜ける。
尾をかわす。
噛みつきを回避する。
ブレスを盾で受ける。
そのまま滑るように踏み込む。
シルヴァリオンが振り抜かれた。
キィン!!
鱗が裂ける。
アストラヴェルが低く唸る。
『……!』
だがタクミはすぐに距離を取る。
次の攻撃。
尾。
回避。
爪。
盾。
ドォン!!
衝撃が腕を貫く。
だが体勢は崩れない。
ラッキーフロー。
最適解。
完全な回避と防御。
そして――
わずかな隙。
タクミは踏み込む。
斬撃。
再び鱗を裂く。
だが浅い。
足りない。
決定打にならない。
タクミは息を吐いた。
(……これじゃ)
倒せない。
その時だった。
アストラヴェルが突進してくる。
巨大な爪。
タクミは左腕を上げた。
フェンリルの魔核。
盾が出現する。
アストラヴェルの瞳が細くなる。
見慣れた動き。
防御。
盾。
――そう判断する。
その瞬間。
盾が消えた。
代わりに。
タクミの左手に短剣が現れる。
フェンリルの魔核。
刃の形。
アストラヴェルの瞳が揺れた。
『……!』
その一瞬。
アストラヴェルの判断が遅れる。
タクミは踏み込んでいた。
シルヴァリオン。
全力の斬撃。
「はああああッ!!」
緑黒の刃が振り下ろされる。
ザンッ!!
深い音。
鱗が裂ける。
肉が断たれる。
アストラヴェルの胸元に、深い傷が走った。
だが――
次の瞬間。
巨大な尾が振り抜かれていた。
ドォン!!
衝撃。
タクミの体が宙を舞う。
岩へ叩きつけられる。
ドォォォン!!
地面が砕けた。
タクミは転がる。
口から血が溢れる。
肺が焼けるように痛い。
アストラヴェルがゆっくり振り向く。
胸から血が流れている。
だが――
まだ倒れない。
黄金の瞳がタクミを見る。
『……いい一撃だ』
低い声。
タクミは剣を支えに立とうとする。
だが足が震える。
体が重い。
ラッキーフローの時間が終わる。
その瞬間。
タクミは理解した。
「……そうか」
最適解。
ラッキーフロー。
それは――
勝つための力じゃない。
ただ。
その状況で最も合理的な行動を選ぶだけ。
たとえ。
自分が傷つくとしても。
それが最もダメージを与えられるなら。
そうなる。
タクミは血を吐きながら呟いた。
「……最適解でも」
「勝てるとは限らないのか」
アストラヴェルが歩いてくる。
ドン。
ドン。
重い足音。
黄金の瞳がタクミを見下ろす。
『終わりか』
静かな声。
タクミは剣を握る。
だが分かっている。
このままでは。
勝てない。
その時。
遠くから声が響いた。
「タクミーーー!!」
リナの声。
タクミの視線が揺れる。
その瞬間だった。
背筋に寒気が走る。
ぞわりと。
本能が叫ぶ。
――違う。
それはダメだ。
タクミの体がわずかに震えた。
そして――
新しい感覚が、芽生えた。
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