第83話『竜闘覚醒』
砂煙がゆっくりと晴れていく。
その中心で、エンシェントドラゴンは静かに立ち上がった。
片翼は裂けている。
もう空は飛べない。
だが、その巨体から放たれる威圧は微塵も衰えていなかった。
黄金の瞳がタクミを見下ろす。
そして低く言った。
『……見事だ』
声は静か。
だが、確かに認めている響きがあった。
『我の翼を落とした人間は初めてだ』
タクミは剣を構えたまま答える。
「光栄だな」
ドラゴンは小さく笑った。
そして、ふと首を傾ける。
『そういえば』
低い声が続く。
『まだ名を聞いていなかったな』
黄金の瞳がまっすぐタクミを捉える。
『名は?』
タクミは一瞬だけ驚いた。
戦いの最中に名を問われるとは思っていなかった。
だが、すぐに答える。
「タクミ」
短く。
それだけ。
ドラゴンはゆっくり頷いた。
『タクミか』
そして胸を張る。
巨大な体がわずかに持ち上がる。
『我が名は――』
一瞬の沈黙。
『アストラヴェル』
空気が震えた。
その名に、重みが宿る。
長い年月を生きた存在の名。
アストラヴェルは続ける。
『覚えておこう』
黄金の瞳が細くなる。
『強き者の名として』
その瞬間だった。
ドラゴンの体から魔力が溢れ出す。
空気が震える。
地面の岩が細かく軋む。
タクミは目を細めた。
「……なんだ」
アストラヴェルがゆっくり言う。
『ここまでは様子見だ』
巨大な爪が地面を掴む。
筋肉が膨らむ。
鱗の隙間から魔力が立ち昇る。
『だが』
黄金の瞳が鋭く光る。
『ここからは違う』
低く、静かに告げる。
『我も』
わずかな間。
『全力でいこう』
次の瞬間。
ドラゴンの姿がブレた。
「――ッ!?」
視界から消える。
速い。
先ほどまでとは、比較にならない。
右――
そう思った瞬間。
巨大な爪が振り下ろされた。
ドォォン!!
地面が砕ける。
タクミはギリギリで横へ跳ぶ。
だが。
次の瞬間。
尾が迫っていた。
「――!」
ラッキーステップ。
体が勝手にひねられる。
尾がかすめて通り過ぎた。
直後――
噛みつき。
巨大な顎が閉じる。
タクミは転がるように回避する。
間髪入れず。
ブレス。
口腔が赤く発光する。
「くっ!」
タクミは左腕を突き出す。
フェンリルの魔核。
盾が展開される。
ドォォォォン!!
炎が爆ぜる。
熱風が吹き荒れる。
炎が消えた、その瞬間。
アストラヴェルの爪がすでに振り下ろされていた。
タクミは後方へ跳ぶ。
ギリギリで回避。
息が荒くなる。
速い。
重い。
そして――
途切れない。
爪。
尾。
噛みつき。
ブレス。
翼の叩きつけ。
連撃。
休む間もなく叩き込まれる。
タクミは避け続ける。
ラッキーステップ。
盾。
回避。
それでも――
一度も攻撃できていない。
隙が、ない。
アストラヴェルの瞳が光る。
『どうした』
低い声。
『攻めてこないのか』
タクミは歯を食いしばる。
「……したいんだけどな」
だが、できない。
一歩踏み込めば、その瞬間に反撃が来る。
完全な猛攻。
先ほどまでとは、桁が違う。
タクミは距離を取りながら息を整える。
「……なるほど」
これが――
空の王の本気。
そして、理解する。
このままでは。
勝てない。
突破口がない。
だが、その時。
頭の奥に、時間を告げる感覚が走る。
ラッキーフロー。
クールタイム終了。
タクミは小さく息を吐いた。
「……もう一回だ」
そして、静かに呟く。
「ラッキーフロー」
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