第82話『最適解』
上空を旋回する影。
巨大な翼が空気を裂く。
エンシェントドラゴン。
その黄金の瞳が、地上のタクミを静かに見下ろしていた。
タクミは呼吸を整えていた。
胸が上下する。
何度も回避している。
だが、攻撃は届かない。
空にいる限り、勝てない。
ドラゴンが言う。
『どうした』
低い声が落ちる。
『逃げ続けるだけか』
タクミは剣を握り直した。
そして静かに呟く。
「……そうだな」
このままでは終わる。
勝てる可能性はない。
タクミは空を見上げた。
巨大な翼。
あれを落とすしかない。
だが、常識で考えれば不可能だ。
人間が空のドラゴンの翼を斬るなど。
「……」
タクミは目を閉じた。
そして静かに呟く。
「ラッキーフロー」
瞬間――
世界の見え方が変わった。
空気の流れ。
筋肉の収縮。
翼の角度。
すべてが整理され、繋がる。
三分間。
最適解を選び続けるスキル。
タクミは目を開いた。
その瞬間。
ドラゴンが動いた。
急降下。
巨大な爪が迫る。
タクミは走る。
真横へ。
さらに斜めへ。
爪が空を切る。
だが次の瞬間。
ドラゴンの口が開いた。
喉の奥が赤く光る。
近距離ブレス。
「――ッ」
タクミはすでに左腕を上げていた。
フェンリルの魔核。
意識が収束する。
銀の盾が出現。
次の瞬間。
轟音。
炎が爆ぜる。
ドォォォォォォン!!
灼熱の炎が盾に叩きつけられる。
だがタクミは、一歩も退かない。
すべて織り込み済みの動き。
炎が消えた瞬間。
タクミはすでに走り出していた。
ドラゴンがわずかに目を細める。
『……先に構えていたか』
タクミは答えない。
走る。
円形の外周へ。
コロシアムのような岩壁。
その壁を――
タクミは迷いなく蹴った。
足が岩を捉える。
そのまま駆け上がる。
人の動きではない。
だがそれが最適。
ドラゴンが翼を振る。
衝撃波。
空気が裂ける。
だが。
タクミはすでに壁を蹴っていた。
体が空へ跳ぶ。
その軌道へ、ドラゴンが突っ込む。
巨大な翼が迫る。
タクミは空中で剣を振り上げた。
シルヴァリオン。
銀の刃が閃く。
斬撃。
キィンッ!!
硬質な音。
だが刃は止まらない。
翼の鱗を裂く。
浅い。
だが確実に通る。
タクミはそのまま落下する。
だが着地前。
ドラゴンの尾が横から迫っていた。
通常なら避けられない。
だが。
タクミはすでに盾を出していた。
フェンリルの魔核。
銀の盾。
ドォン!!
尾が盾に叩きつけられる。
衝撃が腕を貫く。
だが体勢は崩れない。
すべて予定通り。
ドラゴンが低く唸る。
『……』
タクミは盾を消す。
そのまま再び走る。
壁へ。
再び駆け上がる。
ドラゴンが急降下する。
巨大な爪。
タクミは壁を蹴った。
体が空へ跳ぶ。
ドラゴンの真横。
その瞬間。
タクミは剣を振り抜いた。
シルヴァリオン。
狙いは翼の付け根。
バキッ!!
硬い感触。
そして――
肉が裂ける音。
ドラゴンの体が揺れた。
「……ッ!」
タクミは地面に着地する。
まだ終わらない。
ラッキーフローは続いている。
ドラゴンが翼を大きく振る。
だが、バランスが崩れている。
飛行が乱れる。
タクミは再び壁へ走る。
駆け上がる。
跳ぶ。
そして――
最後の一撃。
「はあああッ!」
シルヴァリオンが振り下ろされる。
翼の骨格へ。
刃が食い込む。
バキィッ!!
骨が砕ける音。
ドラゴンが吠えた。
『グォォォォォォ!!』
巨大な翼が崩れる。
飛行が完全に破綻した。
タクミが地面に着地した瞬間。
ドラゴンの巨体が落下する。
ドォォォォォン!!
大地が震える。
岩が砕ける。
巨体が天裂の断崖に叩きつけられた。
砂煙が舞い上がる。
タクミは剣を構えたまま動かない。
やがて。
煙の中からドラゴンがゆっくりと立ち上がる。
片翼は裂けている。
もう飛べない。
黄金の瞳がタクミを捉えた。
『……なるほど』
低い声が響く。
『…行動を選んでいるのか?』
タクミは答えない。
ただ剣を構える。
ドラゴンが言う。
『翼を落とされたか』
巨大な爪が地面を掴む。
翼は、もう広がらない。
地上戦。
ドラゴンの瞳が光る。
『いいだろう』
静かな声。
だが、圧がある。
『ここからが』
『本当の戦いだ』
タクミは剣を握り直した。
3分。ラッキーフローが切れた。
そして――
空の王との“本当の戦い”が、始まる。
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