第81話『空からの猛攻』
エンシェントドラゴンの巨体が空へ浮かび上がる。
巨大な翼が広がるたび、天裂の断崖の空気が大きく揺れた。
風圧だけで地面の砂が巻き上がる。
タクミは目を細めた。
「……空中か」
予想していた。
だが、実際に目の前で見ると、その威圧感は想像以上だった。
数十メートル上空。
そこからドラゴンが見下ろしている。
黄金の瞳が静かに細くなった。
『どうした』
低い声が降ってくる。
『来ないのか』
タクミは苦笑した。
「そっちが降りてくる気は?」
ドラゴンは短く笑う。
『空は我の領域だ』
次の瞬間。
ドラゴンが急降下した。
空気が裂ける。
タクミは瞬時に横へ飛ぶ。
ドォォン!!
巨大な爪が地面を叩きつけた。
岩が砕け、衝撃が大地を走る。
タクミはすぐに体勢を立て直す。
だがドラゴンは、すでに空へ戻っていた。
速い。
想像以上に速い。
「……厄介だな」
タクミが呟いた瞬間。
再びドラゴンが動いた。
今度は真横から突っ込んでくる。
巨大な尾が振り抜かれる。
タクミは跳ぶ。
尾が足元を通り過ぎた。
その風圧だけで体が浮きそうになる。
着地した瞬間、空気が震えた。
ドラゴンの口が開く。
喉の奥が赤く光る。
「来る!」
タクミは腕を前に出した。
フェンリルの魔核。
盾を展開。
次の瞬間。
轟音とともに炎が吐き出された。
ドォォォォォォン!!
灼熱のブレスが盾に直撃する。
炎が爆発のように広がる。
熱風が周囲を焼いた。
だが――
炎が消えた時。
タクミはまだ立っていた。
盾の向こうで。
ドラゴンが空中で翼を広げる。
『……防ぐか』
タクミは盾を消した。
だが息が少し荒い。
ブレスの威力は想像以上だ。
何度も受けられるものではない。
上空のドラゴンがゆっくり旋回する。
そして次の瞬間。
急降下。
今度は真正面から。
巨大な爪が振り下ろされる。
タクミは横へ飛ぶ。
ギリギリで回避。
爪が空を裂く。
だが、その瞬間。
ドラゴンの尾が横から迫っていた。
「――しまっ」
避けきれない。
そう思った、その瞬間。
体が勝手に動いた。
地面を蹴る。
体がひねられる。
尾がすぐ横を通り過ぎた。
ほんの数センチ。
かすりもしない。
タクミは着地して距離を取る。
そして小さく呟いた。
「……今の」
自分で動いた感覚がなかった。
その瞬間。
頭の奥に感覚が走る。
ラッキーステップ。
無意識の回避。
タクミは空を見上げた。
ドラゴンが旋回している。
黄金の瞳がわずかに細くなった。
『今のは』
低い声が落ちる。
『避けられる軌道ではなかった』
タクミは肩をすくめた。
「たまたまだ」
ドラゴンはしばらく沈黙した。
そして。
『……なるほど』
翼を大きく広げる。
『それが』
『お前の力か』
次の瞬間。
ドラゴンが再び突っ込んできた。
急降下。
爪。
尾。
翼による衝撃波。
空からの猛攻が続く。
タクミは地面を走る。
跳ぶ。
転がる。
攻撃を避け続ける。
何度も。
何度も。
何度も。
「――ッ!」
巨大な爪が振り下ろされる。
回避。
直後、尾が迫る。
足が勝手に無意識の方向に動き、体が勝手にひねられる。
また避けた。
ラッキーステップ。
タクミの意思ではない。
だが体が最適な回避を選ぶ。
ドラゴンが低く唸る。
『……おかしい』
再び急降下。
今度こそ。
その軌道は、明らかに避けられない。
そう見えた。
だが。
タクミの足が滑るように動く。
ほんのわずか。
位置がずれる。
爪が空を切った。
ドラゴンが空へ戻る。
そして空中で静止した。
黄金の瞳がタクミを見下ろす。
『今のは』
少し間を置く。
『決まったと思ったが』
タクミは肩で息をしていた。
何度も回避している。
だが。
攻撃するチャンスがない。
空にいる限り。
届かない。
タクミは剣を握り直した。
空のドラゴンを睨む。
そして呟く。
「……まずいな」
このままでは。
一方的に消耗するだけだ。
ドラゴンが空中で翼を広げた。
黄金の瞳が光る。
『どうした』
声が響く。
『来ないのか』
タクミは小さく息を吐いた。
そして呟く。
「……それ、さっきも同じこと言ってたぞ」
空を見上げる。
「俺ももう一度聞く。…そっちが降りてくる気は?」
『…』
「冗談通じないな」
翼。
巨大な翼。
あれがある限り。
戦いは成立しない。
タクミは剣を構えた。
静かに言う。
「まずは」
「そこだな」
視線を鋭く上げる。
狙うのは――
翼。
空の王を地上へ引きずり落とす。
そのための一手を。
タクミは思考を巡らせた。
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