第78話『決戦前夜』
宿の部屋。
夜はもう深い。
窓の外は静まり返っていた。
昼間の騒ぎが嘘のように、セントラルの街は眠っている。
タクミは椅子に座り、窓の外をぼんやり眺めていた。
エンシェントドラゴン。
明日、戦うことになる相手だ。
ふと、昼の言葉を思い出す。
――世界の支えを失うことになってもか
タクミは小さく息を吐いた。
「……考えてなかったな」
正直な感想だった。
森の王。
山の王。
海の王。
全部、成り行きだった。
興味本位で始めたこと。
でも気づけば三つ集まっていた。
そして最後に現れたのが、空の王。
「世界を支える存在、か」
呟いてみる。
自分が倒してきた存在が、そんなものだったとは思っていなかった。
でも。
少し考えて、タクミは首を振る。
「まあ、いいか」
最初から大層な理由なんてない。
ただ。
元の世界では何もできなかった。
この世界で何かを達成したかった。
それだけだ。
タクミは腕を組み、背もたれに体を預けた。
「……ここまで来たんだな」
色んなことがあった。
思い出そうと思えばいくらでも出てくる。
だが、今は振り返りすぎない方がいい気がした。
タクミは手を軽く振る。
「ステータス」
視界にウィンドウが開く。
久しぶりに見る表示だった。
――Lv.68
HP:1015
MP:1006
ATK:1006
DEF:1006
SPD:1006
INT:1006
LUCK:999
スキル
ラッキーステップ
ラッキーストライク
ラッキーフロー
タクミは少し眉を上げた。
「レベル……上がってるな」
フェンリルを倒した時は65だったはずだ。
その後も戦いは続いていた。
アイアンマンティスの群れ。
ボア。
細かい戦闘はいくつもあった。
だから不思議ではない。
ステータスも上がっている。
……だが。
タクミは一点に目を止めた。
「運」
表示は変わっていない。
999。
タクミは少し考える。
他のステータスは1000を超えている。
レベルが上がれば伸びる。
当然だ。
でも。
運だけは変わらない。
「……そういうもんか」
小さく笑う。
この世界に来た時からそうだった。
最初から999。
それ以上でも、それ以下でもない。
やはりレベルで伸びるものではないことが証明された。
人の運は決まってる。
前の世界でも感じていたことだ。
それはこの世界に来てからも同じこと。
だけど今回はこの運に救われてここまできた。
(皮肉なものだな…)
タクミはウィンドウを閉じた。
次に腰の剣を見る。
シルヴァリオン。
鞘から少しだけ抜く。
刃が静かに光る。
ヴォルドが言っていた。
――最高の出来だ。
タクミは刃を戻す。
そして左腕を見る。
腕輪。
フェンリルの魔核。
意識を向ければ、短剣と盾を作れる。
あの戦いで手に入れた力だ。
「うし、やるか」
静かに立ち上がる。
窓を開けると、夜風が部屋に流れ込んだ。
空には星が広がっている。
その向こう。
明日、自分は空の王と戦う。
タクミは小さく息を吐いた。
「よし」
もう一度短く呟く。
それだけだった。
決戦は、もうすぐだ。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
毎日更新予定です。
時間は不定期とさせていただきます。




