第70話『広がっていた噂』
レインベルを出てから三日。
街道の先に、見慣れた城壁が見えてきた。
セントラル。
リナが軽く伸びをする。
「やっと戻ってきたね」
「そうだな」
タクミは城門を見上げた。
この街に来てから、色々なことがあった。
だが、こうして戻ってくると不思議と落ち着く。
二人は門をくぐった。
⸻
街の中はいつも通り賑わっている。
商人の呼び声。
行き交う馬車。
冒険者の姿も多い。
その中を歩いていると――
「……?」
リナが小さく首を傾げた。
「どうした?」
「なんかさ」
少し声を落とす。
「見られてない?」
タクミも周囲を見渡す。
確かに。
通りすがりの人間が、ちらちらとこちらを見ている。
冒険者らしい男たちが、何か話しながら指差しているのも見えた。
タクミは苦笑する。
「気のせい……ではなさそうだな」
「だよね」
リナも困ったように笑う。
「私たち何かしたっけ?」
「思い当たらないな」
とはいえ、ここで考えても仕方ない。
二人はそのまま冒険者ギルドへ向かった。
⸻
ギルドの扉を開く。
その瞬間――
ざわめきが、一段大きくなった。
「おい……」
「あれ……」
「戻ってきたぞ」
「本当に二人だ」
そんな声があちこちから聞こえる。
リナが小さく言う。
「やっぱりなんか変だよ」
タクミも苦笑するしかなかった。
⸻
二人はそのまま受付へ向かう。
受付嬢が顔を上げた。
そして――
「あ……!」
明らかに驚いた表情になる。
「タクミさん、リナさん」
タクミは軽く頭を下げた。
「お久しぶりです」
「バーグさんはいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ちください」
受付嬢はすぐに奥へ向かった。
⸻
その間も、周囲のざわめきは止まらない。
「本当に戻ってきたのか」
「レインベルに行ったって聞いたぞ」
「いや、それよりフェンリルだろ……」
そんな言葉が耳に入ってくる。
リナが小声で言う。
「……今、フェンリルって聞こえた」
「俺も聞こえた」
タクミは少し眉をひそめる。
「どういうことだ?」
⸻
しばらくして、奥の扉が開いた。
バーグが姿を現す。
二人を見ると、軽く眉を上げた。
「……戻ったか」
タクミは軽く頭を下げた。
「お久しぶりです、バーグさん」
リナも笑う。
「ただいまです」
バーグは腕を組んだまま二人を見る。
それから周囲を一瞥した。
まだざわついているギルド。
小さくため息をつく。
「……なるほどな」
タクミが尋ねる。
「何かあったんですか?」
バーグは少し呆れたように言った。
「お前ら、本当に気付いてないのか」
「何がでしょう」
バーグは肩をすくめる。
「お前らがやったことがだいたい全部、街に広まってしまった」
リナが目を丸くする。
「え?」
タクミも思わず聞き返した。
「……全部、ですか?」
バーグは指を折る。
「山の異変の正体だったキメラ騒ぎの収束」
「伝説とされていたフェンリルの発見、さらには討伐」
「アイアンマンティスの群れはそもそもここにいるだいたいの奴が知っているが…」
そして言った。
「しかもそれらを全部、二人でやったって話がだ」
タクミとリナは顔を見合わせる。
リナが小さく呟いた。
「……そりゃ見られるか」
バーグは鼻で笑う。
「当たり前だ」
それからタクミを見る。
「それで」
「海には行ってきたんだろ」
タクミは頷いた。
「はい」
「レインベルまで」
バーグは少し目を細める。
「で?」
短く聞く。
「手に入ったのか」
タクミは答えた。
「……はい」
「海の王の記憶、手に入りました」
バーグは数秒黙った。
それから深く息を吐く。
「……この街を離れてからたったの一週間だぞ」
タクミは苦笑する。
「そうですね」
バーグは頭をかいた。
「もう驚かん」
「驚かんが……」
小さく呟く。
「本当に規格外だなお前は」
それから手で奥を指した。
「……とりあえず詳しい話は中で聞こう」
タクミが頷く。
「はい」
奥の部屋へ向かおうとした、その時だった。
「タクミさん!!」
ギルドの奥から声が響いた。
振り返る。
そこに立っていたのは――
以前、森で面倒を見た新人冒険者の二人だった。
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