第65話『海の話』
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セントラルの街門を抜けると、街道はゆるやかに南へ続いていた。
朝の空気はまだ涼しい。
街の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
しばらく無言で歩いたあと、リナがふと口を開いた。
「ねえタクミ」
「ん?」
「海って……本当に行くの?」
タクミは少し笑う。
「今さらだろ」
「それはそうなんだけどさ」
リナは少し困ったような顔をした。
「私、海ってあんまりいい話聞かないんだよね」
「そうなのか?」
「うん」
リナは歩きながら指を折る。
「まず、魔物がいるでしょ」
「まあ、知らなかったけどこの世界ならいそうだな」
「普通の人は近寄らない」
「そうなのかもしれないな」
「漁師はすごく強い」
タクミは少し笑った。
「そこまでなのか」
「だって船で沖まで出るんだよ?」
リナは真顔だった。
「魔物が出たら戦うしかないじゃん」
確かに、この世界ではそうなる。
タクミは少し考えてから言った。
「俺が知ってる海とは、ちょっと違うな」
リナが首を傾げる。
「違う?」
「遊びに行く場所だ」
「……は?」
リナは完全に理解できない顔をした。
「遊び?」
「ああ」
タクミは肩をすくめる。
「泳いだり」
「泳ぐ?」
「水の中で遊ぶんだよ」
リナは思わず足を止めかける。
「海で?」
「そう」
「魔物いるのに?」
「…いない海があるんだよ」
リナはしばらく黙った。
そして小さく言う。
「信じられない」
タクミは苦笑する。
「まあ、こっちの海とは違うかもしれないけどな」
リナは腕を組む。
「泳ぐって……水の中に入るってことだよね」
「そうだな」
「危なくない?」
「浅い場所なら大丈夫だ」
「海って浅いの?」
「場所による」
リナは完全に混乱していた。
「なんか想像してたのと全然違う」
「リナの海ってどんな感じなんだ」
「だから」
リナは少し身振りを交える。
「港があって」
「うん」
「船があって」
「うん」
「屈強な漁師がいて」
「うん」
「それで沖に出て、魔物と戦いながら魚を獲る」
タクミは少し笑った。
「だいぶ物騒だな」
「だってそう聞いてるもん」
リナは少しむっとした顔をする。
「海って危ない場所なんだよ」
タクミは空を見上げる。
「まあ、そういう海もあるんだろうな」
リナは少しだけため息をついた。
「でも」
タクミを見る。
「綺麗なんでしょ?」
「そうだな」
タクミは少し考える。
「すごく広い」
「広い」
「空と水しか見えない」
リナの目が、少しだけ輝いた。
「そんなに?」
「天気がいいと青い」
「青い海ってやつ?」
「多分それだな」
リナは少しだけ嬉しそうに笑う。
「それはちょっと見てみたいかも」
タクミも笑った。
「だろ」
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二人はまた歩き始める。
街道の先には、まだ見えない南の大地。
その向こうにあるという海。
リナがふと思い出したように言った。
「でもさ」
「ん?」
「海の王ってどこにいるんだろ」
タクミは少しだけ空を見上げた。
「さあな」
森の王。
山の王。
どちらも、最初から居場所が分かっていたわけじゃない。
「行けば分かるかもしれない」
タクミはそう言った。
リナは少し笑う。
「タクミらしい」
「そうか?」
「うん」
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少しだけ風が吹いた。
南の方から。
どこか、湿ったような匂いが混じっている気がした。
まだ気のせいかもしれない。
でも、その先には確かに――
海がある。
二人はそのまま歩き続けた。
まだ見ぬ場所へ向かって。
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