第64話『次の目的地』
それから数日経ったある日。
いつもと変わらないセントラルの朝。
宿の窓から、柔らかな光が差し込んでいた。
タクミは椅子に座りながら、装備を整えていた。
シルヴァリオンの刃を布で軽く拭く。
相変わらず、刃こぼれ一つない。
「本当に丈夫だな」
小さく呟く。
ヴォルドが聞いたら喜びそうだ。
その時、扉の向こうから声がした。
「もう準備終わった?」
扉を開けるとリナがまだ眠そうな顔で立っていた。
「ちょっと中で待ってて。すぐ出れるようにするから」
リナは椅子に腰掛ける。
「いよいよだね」
タクミは少し考える。
それから頷いた。
「ああ」
森。
山。
そこまでは来た。
リナとは今日出発することを事前に決めていた。
リナは窓の外を見る。
「海かぁ」
少し楽しそうな声だった。
「私、ちゃんと見たことない」
タクミは少し驚く。
「そうなのか?」
「うん」
リナは笑う。
「川はあるけどね」
タクミは装備をまとめる。
左腕の腕輪に触れる。
フェンリルの魔核。
軽い。
だが、確かな力を感じる。
「これも試せるな」
リナが立ち上がる。
「じゃあ最後にギルド行こっか」
「バーグさんにも挨拶しておきたいし」
タクミも頷いた。
「そうだな」
⸻
二人は宿を出る。
朝のセントラルは活気に満ちていた。
商人の声。
冒険者の笑い声。
何度も歩いた通り。
気が付けば、この街にも馴染んでいた。
冒険者ギルドの扉を開ける。
いつものざわめき。
受付嬢がすぐに気付く。
「あ、タクミさん、リナさん」
「おはようございます」
奥からバーグも出てきた。
「どうした」
タクミが言う。
「そろそろ出ようと思って」
バーグが眉を上げる。
「もうか?」
リナが頷く。
「次は海に行ってきます」
バーグは腕を組む。
少し考える。
それから笑った。
タクミが肩をすくめる。
「まあ」
バーグは二人を見る。
「気を付けろ」
それだけだった。
だが、その言葉には重みがあった。
リナが笑う。
「はい」
タクミも軽く手を上げる。
「また戻ってきます」
バーグは鼻で笑う。
「好きにしろ」
それから少し真面目な顔になる。
「お前らなら大丈夫だろ」
短い言葉。
それで十分だった。
⸻
二人はギルドを出る。
街門へ向かう道。
セントラルの街並みを、リナが振り返る。
「なんかさ」
タクミを見る。
「結構長くいた気がするね」
タクミも振り返る。
積み重なった出来事が、静かに思い出される。
「……そうだな」
タクミは前を向く。
「行くか」
リナも頷く。
「うん」
⸻
街門を抜ける。
その先には、大きな道が続いていた。
遥か先。
その向こうには――
海がある。
二人は並んで歩き出した。
次の目的地へ向かって。
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