第62話『格の違い』
森の奥から現れた魔物を見て、カイルの顔が青ざめた。
巨大な体。
赤黒い皮膚。
そして、地面を削るほど鋭い牙。
「な……」
声が震える。
「なんですか……あれ……」
ミアも言葉を失っていた。
リナが静かに言う。
「ブラッドボア」
その名前を聞いただけで、二人の表情が固まる。
新人冒険者が相手にする魔物ではない。
むしろ――
中堅のパーティでも苦戦する相手だ。
ブラッドボアは四人を見つめると、鼻を鳴らした。
フゴォ……
そして前脚で地面を掻く。
土が大きく抉れる。
「やばい……」
カイルが呟く。
その時。
タクミが言った。
「リナ」
「うん」
短い返事。
それだけで動きが決まる。
リナはすぐにカイルとミアの前に出た。
「二人は下がって」
ミアが慌てる。
「で、でも――」
リナが笑う。
「大丈夫」
「タクミがいるから」
ブラッドボアが突進した。
ドンッ!!
地面が揺れる。
巨体が一直線に突っ込んでくる。
「来ます!」
カイルが叫ぶ。
だが、タクミは落ち着いていた。
一歩、前に出る。
右手――シルヴァリオン。
左腕――腕輪が光る。
白銀の物質が広がる。
盾。
ドゴォンッ!!
突進がぶつかる。
衝撃。
だが、タクミは一歩も下がらない。
カイルが目を見開く。
「止めた……!?」
あの巨体を。
真正面から。
タクミは小さく息を吐いた。
「……重いな」
盾を解除する。
白銀の物質が流れ、形を変える。
短剣。
左手に収まる。
ブラッドボアが体勢を立て直す。
再び突進。
だが、タクミはすでに動いていた。
横へ回る。
短剣で牙を弾く。
キィンッ!!
金属のような音。
その隙。
シルヴァリオンが閃く。
ズバッ!!
赤黒い皮膚が裂ける。
だが魔物は止まらない。
怒りの咆哮を上げる。
フゴォォッ!!
後ろでカイルが呟く。
「速い……」
巨大な体なのに。
動きが速い。
だが、タクミには余裕があった。
短剣で牽制。
突き。
フェイント。
ブラッドボアの注意を引く。
その一瞬。
シルヴァリオン。
ズドォッ!!
深く斬り裂く。
ミアが思わず言う。
「すごい……」
タクミは止まらない。
攻撃。
回避。
牽制。
すべてが無駄なく繋がっている。
カイルが呟く。
「これが……Sランク……」
ブラッドボアが怒り狂う。
再び突進。
だが、タクミは動じない。
左腕に魔力を流す。
瞬間的に盾が生まれる。
ドゴォン!!
衝撃。
その反動を利用して体を回す。
シルヴァリオンが振り抜かれる。
ズバァァッ!!
巨大な斬撃が走る。
魔物の体が大きく裂けた。
ブラッドボアがよろめく。
タクミは一歩踏み込む。
左手の盾が短剣に変わり突き刺さる。
動きが止まる。
そして――
右手。
シルヴァリオンが振り下ろされる。
ズドォン!!
巨体が地面に崩れ落ちた。
森が静かになる。
カイルもミアも、言葉を失っていた。
リナが笑う。
「終わったね」
タクミはシルヴァリオンの血を払う。
「まあな」
カイルが呟く。
「すごすぎる……」
ミアも頷く。
「全然レベルが違う……」
タクミは二人を見る。
「いい勉強になったか?」
二人は勢いよく頷いた。
「はい!」
リナが笑う。
「じゃあ帰ろっか」
⸻
四人は森を出る。
帰り道。
ミアがそっとリナに近づいた。
小声で聞く。
「ねえ」
「ん?」
ミアが少しだけ笑う。
「タクミのこと……好きなの?」
リナの顔が一瞬で赤くなる。
「えっ!?」
慌てて周囲を見る。
「な、なんでそうなるの!?」
ミアは楽しそうに笑う。
「なんとなく」
「でも、お似合いだよ」
小さく囁く。
「応援してるね」
リナは完全に慌てていた。
「ち、違うってば!」
その様子を見て、カイルが不思議そうにする。
「どうした?」
前を歩いていたタクミも振り向く。
「リナ?」
「顔赤いぞ」
リナはさらに慌てる。
「な、なんでもない!」
タクミは首を傾げた。
「?」
そんなやり取りをしながら。
四人はセントラルへ戻っていった。
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