第60話『頼み』
翌日。
セントラル冒険者ギルド。
扉を開けると、昨日よりも人が多かった。
冒険者たちの話題は、やはり森の件だ。
「調査団、まだ戻ってないらしい」
「マジか……」
「アイアンマンティスがあれだけいたんだぞ」
ざわつく空気。
だがその奥に、わずかな緊張が混じっている。
タクミとリナはカウンターへ向かった。
受付嬢が二人に気付き、少し申し訳なさそうな顔をする。
「タクミさん、リナさん……」
そこへ奥からバーグが出てきた。
「今日も来てくれたか」
腕を組んだまま近づいてくる。
「悪いな」
タクミが首を傾げる。
「何がです?」
バーグは少しだけ眉をしかめた。
「森の調査団がまだ戻ってきてない」
「多分いなさすぎて丁寧に調査しているだけだと思うんだが…確認が終わってないから、報酬も出せない」
タクミは軽く手を振る。
「別に急いでないですよ」
リナも笑う。
「昨日も言いましたよね」
バーグは小さく息を吐いた。
「助かる」
それから低く続ける。
「今日中には戻るとは思うが……」
「また戻った時で良いので教えてください」
タクミはバーグが申し訳なさそうに言うのを制するように言った。
「じゃあどうします?」
リナも周囲を見回す。
「時間あるね」
その時だった。
「お願いします!」
受付の方から声が上がる。
若い男の声。
二人はそちらを見る。
カウンターの前に立っていたのは、若い冒険者の二人組だった。
男と、女。
まだ装備も新しい。
「僕たち、ウルフ討伐の依頼を受けたいんです!」
受付嬢が困った顔をしている。
「でも……森は今、危険で……」
男は食い下がる。
「ウルフくらいなら倒せます!」
隣の女性も頷く。
「練習もしてきました」
受付嬢は答えに迷っていた。
そこでバーグが口を挟む。
「どうした」
受付嬢が説明する。
「新人パーティなんですが……ウルフ討伐の依頼を受けたいと」
バーグは二人を見る。
若い。
緊張している。
だが――目は逸れていない。
「森は昨日の件があってだな」
腕を組む。
「今新人を行かせるのは…」
男が悔しそうに拳を握る。
「でも……」
言葉が続かない。
バーグも少し考え込む。
その時だった。
視線が横に向く。
タクミとリナ。
バーグは二人を見たまま、ゆっくり口を開いた。
「……なあ」
タクミが首を傾げる。
「はい?」
バーグが言う。
「頼みがある」
そして新人二人を顎で示す。
「この二人、面倒見てやってくれねぇか」
タクミとリナが少し驚く。
バーグは続ける。
「将来有望なんだがな」
「昨日の件があるから、森に新人だけで行かせるわけにもいかない」
それから一言、重ねる。
「……あの森、まだ何かいる可能性もある」
空気が、ほんの少しだけ張り詰めた。
タクミの視線がわずかに動く。
だがバーグはそれ以上は言わない。
「お前らが一緒なら問題ない」
新人二人が固まる。
「え……?」
男がタクミを見る。
「Sランクの……?」
タクミは少しだけ困った顔をした。
リナが横で笑う。
「どうする?」
タクミは少し考える。
それから新人二人を見る。
緊張している。
「……まあ」
タクミは肩をすくめる。
「ウルフくらいなら大丈夫だろ」
バーグが頷く。
「決まりだな」
新人二人が慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
男が言う。
「僕はカイルです!」
隣の女性も続く。
「私はミアです!」
リナが微笑む。
「リナよ」
タクミも軽く手を上げた。
「タクミだ」
カイルは目を輝かせていた。
「Sランクの人と一緒に行けるなんて……」
タクミは苦笑する。
「別に戦わないけどな」
「俺たちは基本、見てるだけだ」
ミアが少し緊張した声で言う。
「それでも……心強いです」
バーグが腕を組む。
「じゃあ頼んだ」
「森の様子も、ついでに見てきてくれ」
タクミは頷いた。
「分かりました」
リナも笑う。
「行こっか」
⸻
こうして。
四人の小さなパーティは、森へ向かうことになった。
⸻
ギルドを出て、街道を歩く。
少しだけ距離ができたところで――
カイルが緊張した声で口を開いた。
「あの……」
タクミが振り向く。
「ん?」
「Sランクって……やっぱりすごいんですか?」
タクミは少し考える。
そして、短く答えた。
「別に」
リナが笑う。
「強くなっただけよ」
タクミは前を向いたまま続ける。
「お前らも、そのうちなれるさ」
カイルが息を呑む。
ミアも小さく頷いた。
⸻
森へ向かう道。
その先を見ながら――
タクミは、ふと思った。
昔の自分たちも――
きっと、こんな感じだった。
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