第59話『報告』
夕方。
タクミとリナは、冒険者ギルドへ戻ってきていた。
扉を開ける。
すると――
ギルドの中は、まだざわついていた。
依頼掲示板の前には冒険者たちが集まり、森の話をしている。
「アイアンマンティスらしいぞ」
「マジかよ……」
「数が多いって話だ」
不安と興奮が入り混じった声が飛び交っていた。
その中を、タクミたちはカウンターへ向かう。
受付嬢が顔を上げた。
「あ、タクミさん」
――そして、言葉が止まる。
「……もう戻られたんですか?」
タクミは頷いた。
「はい」
一拍。
そして、簡潔に告げる。
「依頼、終わりました」
「……え?」
受付嬢が固まる。
数秒遅れて、ぎこちなく言葉を探す。
「えっと……その……」
「森の、ですか……?」
「はい」
横でリナが笑う。
「アイアンマンティスのやつです」
受付嬢の目が、ぱちぱちと瞬いた。
「え……?」
「もう……ですか?」
ちょうどその時。
奥の部屋からバーグが出てきた。
「どうした」
受付嬢が振り向く。
「ギルドマスター、その……」
言葉に詰まる。
タクミが代わりに口を開いた。
「依頼、終わりました」
バーグの動きが止まる。
「……は?」
短い沈黙。
バーグは、ゆっくりと確認する。
「終わったって……」
「マンティスの件か?」
「はい」
視線が鋭くなる。
「……何体いた」
タクミは少し思い出す。
「正確には数えてませんけど」
リナが横から言う。
「三十体くらい?」
タクミも頷く。
「それくらいだと思います」
――空気が、止まった。
近くにいた冒険者たちも、会話をやめてこちらを見る。
バーグはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「……お前ら」
低い声。
「森に入って、どれくらいだ」
タクミは軽く考える。
「往復含めて……」
「二時間くらいですかね」
バーグの表情が、固まる。
「……」
沈黙。
受付嬢も、完全に言葉を失っていた。
やがてバーグは額を押さえる。
「おい……」
小さく呟く。
「マジかよ」
数秒。
そのまま考え込み――
顔を上げる。
「分かった」
声は落ち着いている。
だが、呆れは隠しきれていない。
「これから調査団を出す」
タクミが頷く。
「確認ですね」
「ああ」
バーグは腕を組む。
「お前らを疑ってるわけじゃねぇ」
「だが依頼は、きっちり確認する」
それがギルドの仕事だ。
「報酬はその後になるがいいか?」
タクミは軽く手を振った。
「大丈夫ですよ」
リナも頷く。
「急いでないです」
バーグは二人を見て、少しだけ苦笑する。
「……今日はもう休め」
タクミは肩を回す。
「確かに」
リナも笑った。
「ちょっと疲れたかも」
二人はカウンターを離れ、出口へ向かう。
背後で、ざわめきが一気に広がった。
「三十体って……」
「嘘だろ」
「しかも二人で?」
「やっぱSランクってああなのか……」
抑えきれない驚きが、波のように広がっていく。
バーグはそれを聞きながら、ぽつりと呟いた。
「……強くなったな」
森へ向かった時とは、明らかに違う。
あの二人はもう――
“普通”の枠には収まらない。
バーグは受付嬢に視線を向ける。
「調査団出すぞ」
「はい!」
ギルドは、再び慌ただしく動き始めた。
⸻
外へ出たタクミは、夕焼けの空を見上げた。
左腕の腕輪に触れる。
白銀の魔核。
わずかに、温もりが残っている。
「……いい武器だな」
リナが笑う。
「気に入った?」
タクミは頷いた。
「かなり」
少しだけ間を置いて――
ぽつりと続ける。
「思ったより、手に馴染む」
リナが楽しそうに言う。
「もう自分の武器って感じだね」
タクミは小さく笑った。
否定はしない。
二人は並んで歩き出す。
セントラルの街に、灯りがともり始めていた。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
毎日更新予定です。
時間は不定期とさせていただきます。




