表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOOD LUCK  作者: risiyakaea


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/58

第55話『形を持たない武器』


魔核の脈動が、ゆっくりと落ち着いていく。


タクミが魔力を引くと、

それは再び、元の結晶の形へと戻った。


「……戻ったな」


ヴォルドが低く呟く。

目は、離れていない。


「魔力を流してる間だけ、形を持つ」

「しかも……思い描いた“用途”に寄る」


職人としての思考が、凄まじい速度で回っているのが分かる。


「タクミ…これは剣にも盾にもなれるんじゃねぇか?」


リナが小さく息を呑む。


タクミは、はっきりと頷いた。

「はい。さっきは確かに思い描いた形があって、そう思った瞬間、それになろうとしていました」


工房に、また静寂が落ちた。


ヴォルドは、ゆっくりと腕を組む。

視線は魔核に固定されたままだ。


「……タクミ」

「これを、“打って”ほしいと思ってここに来たんだな」


「はい」

迷いのない返事だった。


ヴォルドは、一度だけ目を閉じた。


(打てる)

(だが――)


炉を見る。

金床を見る。

自分の手を見る。


「……だがな」


目を開き、はっきりと言った。


「これは、俺が形を与えるもんじゃねぇ」


タクミが、少し驚いた顔をする。


「職人の仕事は“形を固定する”ことだ」

「だが、これは違う」


ヴォルドは、魔核をそっと両手で包み込む。


「これは、“形を持たない”こと自体が完成形だ」


声に、確信があった。


「打った瞬間、可能性が死ぬ」

「用途を一つに決めた瞬間、この魔核は“普通の武器”になる」


ヴォルドは、タクミを見る。


「お前はもう、答えを出してる」

「魔力を流せば、応える」

「必要な形に、瞬時に変わる」


「……それ以上の完成形が、どこにある?」


タクミは、ゆっくりと息を吐いた。

言われてみれば、確かにそうだった。


「じゃあ……」


「俺がやることは一つだけだ」

ヴォルドは言い切った。


「この魔核が、壊れないように」

「劣化しないように」

「“形を持たないまま使い続けられる”ように」


職人としての、最大限の関与。


「外殻の処理と、魔力の流れの安定化」

「それだけやらせろ」


そして、少しだけ口角を上げる。


「それ以上手を出したら」

「俺は、職人失格だ」


タクミは、深く頭を下げた。

「……お願いします」


ヴォルドは、鼻で笑う。


「礼を言うのは、こっちだ」

「こんなもん……一生に一度だ」


魔核を作業台に置き、

静かに宣言する。


「これは武器じゃねぇ」

「“意思に応える媒介”だ」


工房の炉が、強く燃え上がった。


ヴォルドの胸には、

確かな余韻が残っていた。


――俺は今、

――打たないことで完成する“武器”を見た。


鍛冶屋として、

これ以上の体験があるだろうか。


「……明日まで俺が待てねぇな」

小さく呟く。

「今日は徹夜だ」


タクミとリナは顔を見合わせ、

そして、同時に笑った。



こうして――

フェンリルの魔核は、


形を与えられなかった。

それこそが、最大の完成だった。

読んでいただきありがとうございます。

初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


毎日更新予定です。

時間は不定期とさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ