第52話『伝承の姿』
セントラルの冒険者ギルドは、相変わらず人が多かった。
依頼書の前で腕を組む者、酒場に流れていく者、受付に詰め寄る新人冒険者。
「……戻ってきたって感じがするな」
タクミが小さく息を吐く。
「うん。やっぱりここは“中心”ね」
リナも視線を巡らせる。
二人が中へ入ると、受付の女性が一瞬きょとんとし――すぐに目を見開いた。
「あっ……!
タクミさんとリナさんですよね?」
「はい」
「お久しぶりです」
「やっぱり……!
少しお待ちください。ギルドマスターをお呼びしますね」
慣れた様子で奥へ向かう背中を見送り、タクミは苦笑する。
「顔、覚えられてるな」
「悪目立ちしすぎたかしら?」
ほどなくして、奥の扉が開いた。
「……戻ったか」
低く落ち着いた声。
ギルドマスター、バーグだった。
「お久しぶりです」
「無事そうで何よりだ」
短くそう言うと、周囲を見渡し、
「ここじゃ話しづらい。来てくれ」
と、奥へ促した。
⸻
扉が閉まると、外の喧騒が嘘のように遠のく。
バーグは椅子に腰を下ろし、開口一番こう言った。
「まず――Sランク昇格の件だ」
タクミは一瞬、姿勢を正す。
「バルゼのギルドマスター、ダッカルから報告は受けている」
「……そうですか」
「キメラ討伐。
そしてグランディナ山脈一帯の異常の解決」
バーグは淡々と続ける。
「どちらも単独、あるいは少数で成し遂げたと聞いている。十分すぎる理由だな」
「ありがとうございます」
タクミは静かに頭を下げた。
「正直、そこまでの驚きはない」
バーグは苦笑しながら言った。
一拍置いて。
「で?」
「はい」
「山では、何があった?」
⸻
タクミは、簡潔に話した。
山で起きていた異変。
キメラの存在。
そして――その奥にいたもの。
「山の奥で、フェンリルと遭遇しました」
バーグの眉が、はっきりと動いた。
「……フェンリル?」
「伝説級の存在、ですよね」
「……ああ」
一瞬、言葉を選ぶ間。
「少なくとも、公式には“実在が確認されていない”」
「俺も、そう聞いていました」
タクミは続ける。
「ですが、確かに存在していました」
リナは補足するように静かに言う。
「山の王、と呼ぶべき存在でした」
「……そうか」
バーグは深く息を吐いた。
驚きはあった。
だが、問い詰める様子はない。
「それで?」
「討伐に至りました」
「……なるほどな」
それ以上、踏み込まない。
それが“既に報告済みの案件”であることを、バーグも理解していた。
タクミは、もう一つだけ付け加える。
「以前お話しした、“森の王の記憶”ですが……」
「……」
「今回も、同じようなものを得ました」
インベントリから取り出された、淡い結晶。
バーグはそれを一瞥し、目を細めた。
「……二つ目、か」
机に肘をつき、指を組む。
「偶然で片付けるには、数が揃い始めたな」
「はい」
「……」
しばらくの沈黙。
「伝承じゃなさそうだな」
バーグは低く呟いた。
タクミは黙って頷いた。
⸻
「次は?」
バーグが視線を上げる。
「……海だと考えています」
「だろうな」
即答だった。
「森、山と来た」
バーグは椅子にもたれ聞いてきた。
「もう出るのか?」
「いや、しばらくはセントラルで過ごそうかと。落ち着いたら向かいます」
「そうか、ゆっくりするといい。急ぐことはないだろう」
立ち上がり、扉へ向かいながらバーグは言った。
「今回の話、ここでは俺が預かる」
「ありがとうございます」
扉が開き、ギルドの喧騒が戻ってきた。
セントラルは変わらない。
だが、確実に――
「真理」に近づいている気がした。
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