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GOOD LUCK  作者: risiyakaea


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第49話『伝説が、山にいた』

翌日。


朝のバルゼは、いつも通りだった。


街は、何事もなかったかのように動いていた。


商人の呼び声。

ギルド前の喧騒。

朝の空気に混じる、焼き立てのパンの匂い。


(……昨日、山であんなことがあったなんて)


タクミは、少しだけ不思議な気分で街を歩いていた。


隣にはリナがいる。

いつもと同じ距離。

いつもと同じ歩幅。


けれど、何かが違う。


(……視線、集まってるな)


気づけば、すれ違う冒険者たちがちらちらとこちらを見ていた。

直接声をかけてくる者はいないが、

囁き合う気配は、はっきりと感じられる。


「……もう噂、回ってるみたいね」

リナが小さく言った。


「早くない?」

「山から戻ってきた時点で、目立ちすぎてたわよ」


確かに、返り血も乾ききらない装備で戻ってきたのだ。

何も起きていない方が不自然かもしれない。


二人は、そのままギルドへ向かった。



奥のカウンターで帳簿を整理していたダッカルが、二人に気づいて顔を上げる。


「昨日は悪かったな。改めてご苦労様だ。

 で、何から話してもらおうか」


「……色々ありました」


タクミは素直に答える。


リナも一歩前に出た。

「調査依頼の件ですが……結果から言うと、山の異変は解消されています」


ダッカルの眉が、ぴくりと動いた。


「……詳しく聞こう。まぁ、まずは座れ」


二人が腰を下ろすと、ダッカルは腕を組んだ。


「山で、何があった。

 まずはそこからだ」


タクミは一息ついて、口を開いた。


「まず、山の王――

 フェンリルは、実在しました」


「……!?」


「そして、討伐しました」


その言葉が落ちた瞬間、

ダッカルの表情が、はっきりと変わった。


「待て」


低い声。


「“いた”だけじゃねぇ。

 “討伐した”だと?」


「はい」


ダッカルは、思わず椅子の背にもたれた。


「……山の王は、

 伝説だと思われてた存在だぞ」


「街じゃ“いるかもしれない”止まりだ。

 本当に実在したなら、それだけで――」


言葉を切り、タクミを見据える。


「……続けろ。

 何があったんだ」


タクミは、順を追って話した。


山の奥で見つけた、不自然な静寂。

本来いるはずの魔物が消えていた区域。


「そして、それらの原因はフェンリルとは関係ありませんでした」


「それじゃ、どうして……」


「――キメラです」


ダッカルの眉が跳ねる。


「キメラ……?」


「自然に生まれるものじゃない。

 人為的に作られた融合魔物です」


そこで、タクミは一度言葉を切った。


「それを作っていたのが……」


「同行していた研究者、

 セリオでした」


ダッカルの顔から、完全に言葉が消えた。


「……セリオ?山の調査がしたいって言ってた男か?」


「はい」


リナが静かに頷く。


「山に現れたキメラは、すべてセリオが作っていました」


「魔物を捕まえて、無理やり融合させて」


ダッカルは、額を押さえた。


「……つまり」


「山が荒れてた原因は、“王”でも、自然災害でもない」


「人間が、勝手な研究をやらかしたせいだと?」


「そうです」


「……」


タクミは続ける。


「俺たちがキメラと遭遇して倒したあと、フェンリルが現れました」


「フェンリルは、山の魔物を融合させてキメラを生み出す行為に怒っていただけでした」


「原因は、最初から最後までキメラです」


ダッカルは、机を軽く叩いた。


「……クソが」


「研究だの何だの、勝手な真似しやがって……」


そして、顔を上げる。


「セリオはどうなった」


「フェンリルに、殺されました」


「そうか……キメラはまだ山に?」


「一体は俺たちが倒しました」


タクミは続ける。


「他は全部、フェンリルが殺しました」


「じゃあ山にキメラは?」


「おそらく残っていません」


「なるほど……」


ダッカルは、長く息を吐いた。


「……じゃあ」


「フェンリルは山を荒らしてたんじゃねぇ」


「山を、守ってた側か」


「結果的には、そうなります」


沈黙。


やがて、ダッカルが視線を上げた。


「……で」


「そんな伝説のフェンリルを、なぜ討伐することになった?」


タクミは、真っ直ぐ答える。


「フェンリルは俺たちとセリオの見境をつけず、人間そのものに怒りを覚えていました」


「……!」


「最初から最後まで、フェンリルは俺たちを殺すつもりでした」


「……それもそうか」


「ただ、死ぬ直前に王の因子――魔核の話や、

 他の王の存在を教えてくれました」


「海の王、アビス」


「空の王、エンシェントドラゴン」


ダッカルは、完全に言葉を失っていた。


「……待て待て待て。情報が多すぎる」


「伝説と言われていたフェンリルが存在して」


「はい」


「魔核が王の因子であることを証明し」


「はい」


「海の王アビス、空の王エンシェントドラゴンの存在に関しても明言し」


「はい」


「それで、タクミが討伐したからフェンリルはもういないと」


「はい」


ふぅー……と、ダッカルはゆっくりと息を整える。


「これで山の異変は?」


「もう起きません」


タクミは答える。


「原因はすべて消えました」


ダッカルは、深く頷いた。


「……一件落着、だな」


そして、ふっと苦笑する。


「街に被害が出なかった理由も、全部繋がった。

 正式に、バルゼ周辺の危険は解消されたと判断する」


ダッカルは二人の顔を見て、


「……お前ら、とんでもねぇことしてくれたな」


「今回の件はギルド史に残るぞ。

 ただ、フェンリルを討伐した話は一旦ここだけの話にしてくれ。街が混乱してしまう。キメラのことや山が安全になったことは、俺からうまく説明しておく」


少し間を置いて、問いかける。


「で……これからどうするんだ?」


「次は、海を目指します」


タクミは即答した。


「海の王を探します」


ダッカルが、目を細める。


「てことはレインベルを目指すのか?」


「バーグさんも海の王の話をした時、レインベルの名前を挙げていました。なので、とりあえず情報収集も兼ねて一度セントラルに戻ろうかと思います」


「……もう発つのか?」


「いえ……今日は街でゆっくりしようかと。明日の朝、出ることにします」


「そうか」


ダッカルは、どこか安心したように頷いた。


「今日は、ゆっくりしてくれ」


「……なんせ伝説を一つ終わらせてきたんだ」


そう言って、ダッカルは笑った。


二人がギルドを出ると、

街はいつも通りだった。


誰も知らない。


この山から、

一つの伝説が消えたことを。


そして――

次は、海。

読んでいただきありがとうございます。

初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


毎日更新予定です。

時間は不定期とさせていただきます。

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