表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOOD LUCK  作者: risiyakaea


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/60

第48話『手を伸ばせば、届く距離』

夜は、静かだった。


宿屋の一室。

灯りを落とした部屋に、リナは一人でいた。


ベッドに腰掛け、背中を壁に預ける。

剣も、杖も、すぐ手の届く場所に置いたまま。


(……眠れないな)


疲れているはずだった。

身体も、魔力も、きっと限界に近い。


それでも目を閉じると、

あの光景が、何度でも蘇ってくる。



山の中腹。


フェンリルと、タクミ。


(……あの背中)


戦いが始まった瞬間、

リナははっきりと理解してしまった。


――自分は、入れない。


強いとか、弱いとかじゃない。

危険とか、安全とかでもない。


ただ、

あそこはタクミの場所だった。


フェンリルと向き合った時の空気。

一歩踏み出すたびに変わる気配。


(あんな戦い方……知らない)


速さでもない。

力押しでもない。


でも、確実に――

死から一歩ずつ、遠ざかっていた。


(……どうして)


どうして、あんなふうに動けるのか。


避ける瞬間。

踏み込む距離。


迷っているようには、見えなかった。


(考えてないわけじゃない)


(でも……悩んでない)


それが、怖くもあった。



途中から。


ほんの、途中から。


タクミの動きが変わった。


説明できない。

でも、見ていれば分かる。


(……あ)


そう思った瞬間には、もう次の動きをしている。


(今、そこ……?)


フェンリルの爪が空を切り、

タクミはそこにいない。


逆に、

「今、ここで斬るんだ」と思った瞬間には、

刃が届いている。


(……ズルい)


心の中で、そんな言葉が浮かんで、

リナは自分で驚いた。


(何よ、それ)


(ズルいって……)


彼が強くなったことが、悔しいわけじゃない。

頼りなくなくなったことが、寂しいわけでもない。


(……じゃあ、なんで)


答えは、分かっている。


分かっているけど、

まだ言葉にしたくなかった。



最後の一撃。


深く刺さった短剣。


それでも倒れないフェンリル。


(……終わらない)


そう思った瞬間。


何かが、噛み合った。


理由は分からない。

でも、はっきりと感じた。


(今のは……)


(タクミにしか、届かない一撃)


フェンリルが崩れ落ちた時、

リナは息を止めていたことに気づいた。



フェンリルの最期。


「……まだ、名を聞いていなかったな、人間」


あの声。


(認めたんだ)


敵としてじゃない。

獲物としてでもない。


一人の存在として。


そして――

その場に立っていたのは、タクミだけだった。


(……遠い)


そう思って、

胸の奥が、少しだけ痛んだ。


(でも)


リナは、ゆっくり息を吐く。


(離れたくない)


理由はいらない。

名前をつける必要もない。


ただ、

隣にいたい。


それだけだった。



ベッドに横になり、天井を見る。


隣の部屋には、タクミがいる。

壁一枚。

手を伸ばせば、届きそうな距離。


(……明日も、一緒に歩く)


それでいい。


今は、それでいい。


まだ追いつけていなくても。

まだ同じ景色を見ていなくても。


(見失わない)


心の中で、そっと誓う。


夜は、静かに更けていった。

読んでいただきありがとうございます。

初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


毎日更新予定です。

時間は不定期とさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ