第44話『選び続けた先』
4/24 少し修正しました。
均衡。
それが、今の状況だった。
タクミは斬る。
フェンリルは避ける。
フェンリルが踏み込む。
タクミは受け流す。
互いに致命を与えられず、
ただ削り合う時間だけが過ぎていく。
(……決め手が、ない)
タクミは歯を食いしばる。
魔力は流せている。
シルヴァリオンも応えている。
それでも――
(このままじゃ、俺が先に限界が来る)
(何か、ないのか)
(決める一手……!)
その瞬間。
頭の奥が、澄み切った。
世界が、静止する。
【条件達成】
【スキルを習得しました】
⸻
【スキル:ラッキーフロー】
発動条件:戦闘中・意思による選択
効果時間:3分
効果:
戦闘中、攻撃するまでの最適解を選び続ける
※連続発動不可
※クールタイムあり
⸻
(……フロー?)
意味は分からない。
だが――
(今は考えてる場合じゃない)
タクミは、息を吐く。
「――ラッキーフロー、発動」
「どうした?人間」
「いや、ちょっと考えることもやめようと思っただけだ」
「そうか…死を悟ったのだな」
フェンリルが踏み込んできた、その瞬間。
(これは回避だ)
理由はない。
直感ですらない。
ただ、“そうするしかない”と分かった。
体が滑る。
爪が空を裂く。
「……?」
フェンリルの瞳が、わずかに揺れる。
(今の……俺の動きじゃない)
(でも――)
(……次!)
距離を詰める。
(今斬れる!)
腕が走る。
――浅い。
だが、確実に当たる。
「……ほう」
フェンリルが低く唸る。
「選んでいるな、人間」
「何を?」
「生き残る道を、だ」
時間が流れる。
1分。
フェンリルの攻撃を、紙一重で躱すことしかできなかった。本当に攻撃に転じる瞬間がなかった。
2分。
何回も攻撃できるチャンスはあったように見えたが、1回だけ“なぜか”踏み込んだ一撃が、肩を裂いた。
だが、あとから考えるとタクミが攻撃できると思ったシーンではおそらく回避、または防御されていただろうと思えた。
タクミは理解する。
(これは……)
(俺が急激に強くなったわけじゃないが)
(勝手に1番良い行動選択ができてる)
「……面白い」
フェンリルが笑った。
「運に愛されたか」
一拍。
「いや――」
黄金の瞳が、鋭く細まる。
「運を"使って"いるな」
タクミは息を吸う。
(時間が……)
もうすぐ、切れる。
(ここだ)
風が止む。フェンリルが踏み込んでくる。
普通なら回避だ。
だが、ラッキーフローが今がチャンスと捉えている。
――前に踏み込む。
迷いはない。
シルヴァリオンが、強く脈打つ。
ズン……!!
刃が、深く沈む。
「……っ!」
フェンリルの胸を捉える。
だが――
「……惜しいな」
まだ、立っている。
(……足りない)
(これでも……!)
終わる。
そう思った、その瞬間。
【スキル発動:ラッキーストライク】
「……っ!!」
刃は確かに捉えてはいるが届ききってはいない。
が、スキルのおかげで致命傷になったようだ。
フェンリルの膝が、崩れ落ちる。
「最後の最後で…まだ力を隠し持っていたのか…」
「隠してたわけじゃない…"運"が良かっただけなんだ」
巨体が、地に伏した。
完全な死ではない。
だが――勝敗は決した。
静寂。
フェンリルは空を仰ぐ。
「……人間」
低く、響く声。
「貴様は――王に届いた」
風が、山を渡る。
そして。
「……それと」
その瞳が、タクミを捉える。
「その魔力量は…異常だ」
タクミの眉が動く。
「そう…なのか?」
「量だけではない」
フェンリルは、静かに言う。
「それに耐えうる“器”も歪んでいる」
「本来普通の人間ならとっくに尽きている量の魔力をお前は流していた」
タクミは、何も言えなかった。
尽きる感覚が、ない。
それが異常だと――
今、初めて突きつけられた。
風が吹き抜ける。
戦いは終わった。
選び続けた先で。
運は――
確かに、刃となった。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
毎日更新予定です。
時間は不定期とさせていただきます。




