第43話『尽きぬ刃』
シルヴァリオンが、唸っていた。
低く、脈打つように。
まるで心臓の鼓動そのもののように。
タクミは、もう迷っていなかった。
(流す……)
意識するまでもない。
呼吸のように。
歩くのと同じように。
体の奥に満ちるものを、
そのまま腕へ、掌へ、刃へ。
“込める”のではない。
流し続ける。
「……ほう」
フェンリルの声が、わずかに沈む。
タクミは踏み込んだ。
斬る。
――ギィィン!!
今度は、弾かれない。
刃が、確かに食い込む。
浅い。だが――通った。
「……ッ」
フェンリルが、後退する。
ほんの半歩。
だが、それだけで異常だった。
「今のは……」
もう一度、踏み込む。
横薙ぎ。
返す刃。
連撃。
硬質な音と、肉を裂く音が交じる。
(……切れる)
はっきりと、理解する。
魔力を流し続ける限り――
この刃は、王にも届く。
フェンリルが距離を取った。
先ほどまでの余裕ある間合いではない。
「魔力を刃に“常時”流しているな」
「……ああ」
短く答える。
「そうしないと、通らない」
「普通はな」
フェンリルの瞳が、細くなる。
「それは、保たない」
次の瞬間。
消えた。
踏み込み。
速い。
だが、タクミも止まらない。
斬る。
躱す。
受け流す。
刃と牙がぶつかるたび、空気が軋む。
山が、震える。
(……おかしい)
フェンリルは、戦いながら思考する。
(削れていくはずだ)
魔力を流し続ける戦闘は、消耗が激しい。
人間なら、なおさら。
(なのに――)
タクミの動きは、鈍らない。
息も、大きくは乱れない。
魔力の揺らぎが――薄い。
「……なぜだ」
距離を取り、睨む。
「貴様、なぜ魔力が尽きぬ」
「……?」
タクミは、首を傾げた。
「尽きる……?」
本気で分かっていない顔。
その瞬間、フェンリルは理解した。
(こいつは――)
(“枯れる”という前提で戦っていない)
戦術を変える。
打ち合わない。
距離を取る。
動かす。
消耗させる。
(必ず、尽きる)
それが王としての判断。
だが――
斬り合いは、続く。
一太刀。
二太刀。
三太刀。
時間が、流れる。
(……来ない)
兆候が。
(馬鹿な)
フェンリルの背に、わずかな冷えが走る。
(人の身で、王と同等の消費をしながら……)
(なお、尽きぬだと?)
「……貴様」
低く唸る。
「己の“器”を理解していないな」
「そうかもな」
タクミは剣を構えたまま答える。
魔力は流れ続けている。
疲労はある。
傷もある。
だが――
(まずいとは、思わない)
その感覚が、すでに異常だった。
フェンリルは、ゆっくりと息を吐く。
「なるほど」
わずかに目を細める。
「歪んでいるな」
「……?」
「量ではない」
言葉を選ぶ。
「流れそのものが、異質だ」
タクミの眉が、僅かに動く。
「……何の話だ?」
「自覚がないか」
牙を剥く。
「だからこそ、厄介だ」
殺気が変わる。
“試し”は終わり。
「ならば」
一歩、踏み込む。
「力で押し潰す」
地が砕ける。
空気が裂ける。
(来る――!)
タクミは、魔力の流れをさらに研ぎ澄ませる。
刃が脈打つ。
シルヴァリオンが、応える。
(いける)
根拠はない。
だが――
確信がある。
フェンリルの牙と、刃が真正面からぶつかる。
――轟音。
山が、吠えた。
フェンリルの目が、わずかに見開かれる。
「……面白い」
初めて。
明確な“評価”。
「人間よ」
「貴様、王と斬り合っている自覚はあるか」
「さあな」
タクミは、剣を握り直す。
「でも――」
刃が、脈打つ。
「退く気はない」
再び、踏み込む。
決着は、まだ遠い。
だがこの時点で――
タクミはすでに、
“魔力を流す者”として完成していた。
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