第37話『空を舞う魔獣』
中腹に差し掛かった頃、風向きが変わった。
それまで一定だった山風が、不意に乱れる。
木々の葉がざわめき、空気が張りつめた。
「……来るわ」
リナが足を止める。
タクミも自然と視線を上げた。
空だ。
雲を裂くように、巨大な影が旋回している。
「グリフォンね」
リナが静かに言う。
「この辺りを縄張りにしてる個体」
次の瞬間――
鋭い鳴き声が山に響いた。
キィィィィ――――!!
羽ばたきと同時に突風が叩きつけられる。
小石が舞い、視界が白く霞む。
「……でかいな」
タクミが短く呟く。
グリフォンは地に降りることなく、
低空を滑るように周囲を回り、間合いを測っていた。
(空か……)
厄介だが、恐怖はない。
その認識だけが、はっきりとあった。
影が落ちる。
鉤爪が一直線に振り下ろされた。
「っ!」
タクミは踏み込み、刃を振るう。
ギィン――!
爪と刃が噛み合う。
「……通るな」
確かな手応え。
硬いが、斬れないわけじゃない。
だが次の瞬間には、
グリフォンはすでに上空へ退いていた。
「ちっ……!」
「地上戦に持ち込めないのが問題ね」
リナが弓を構えながら言う。
「力はあるけど、単純よ。飛ぶことに依存してる」
再び急降下。
今度は嘴。
岩ごと砕く勢いで突っ込んでくる。
タクミは横に跳び、崖を蹴る。
空中で刃を振るうが――
(届かない……!)
わずかに距離が足りない。
「タクミ!」
リナの声が飛ぶ。
「少し、時間を稼いで!」
「了解!」
理由は聞かない。
タクミは着地と同時に駆け出し、
あえて大きく動いてグリフォンの視線を引く。
挑発するように、真正面から睨みつける。
グリフォンが吠え、再び襲いかかる。
その背後で――
風が、収束し始めていた。
(……?)
違和感だけが引っかかる。
次の瞬間。
「――《風よ、縛れ》」
空気が、歪んだ。
見えない拘束が翼に絡みつく。
「キィッ!?」
飛行が乱れ、巨体が傾く。
「今!」
タクミは跳んだ。
今度は、届く。
刃が翼の付け根を捉え、
羽毛ごと肉を断ち切る。
悲鳴。
落下。
叩きつけられた瞬間、
タクミは間合いを詰める。
迷いなく――首元へ一閃。
それで、終わった。
⸻
「……ふぅ」
リナが弓を下ろす。
「久しぶりに詠唱したわ」
「魔法……?」
タクミが少し意外そうに見る。
「そう」
リナは軽く肩をすくめた。
「詠唱に時間がかかるから、普段は使わないだけ」
「でも、ああいう相手には有効でしょ?」
「確かに」
タクミは素直に頷く。
(かなり便利だな……)
その少し後ろで。
セリオはすでに、倒れたグリフォンに近づいていた。
「……良い個体だ」
低く、確かめるような声。
羽を持ち上げ、骨格を確認し、
傷口を観察する。
「筋肉も骨格も、環境に適応している」
「過剰な魔力反応もない」
「……良い?」
タクミが聞き返す。
セリオは一瞬だけ視線を上げ――
「いや、こちらの話だ」
すぐに穏やかな笑みに戻る。
「先へ進もう。目的地は近い」
その横顔を見て、
タクミは、ほんのわずかな違和感を覚えた。
だが、それが何なのかは――
まだ、分からない。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
毎日更新予定です。
時間は不定期とさせていただきます。




