第35話『帰還と、託された言葉』
数日後。
ギルドに、重い気配が戻ってきた。
「……ギルドマスターが帰還したぞ」
その一言で、空気が変わる。
タクミとリナは、すぐに個室へと通された。
分厚い扉。
外の喧騒を完全に遮断する静寂。
「座れ」
低く、よく通る声。
白髪混じりの壮年の男が、二人を見据えていた。
全身に刻まれた無数の傷が、積み重ねてきた死線を物語っている。
「俺はバルゼのギルドマスター、ダッカルだ。セントラルからの紹介状があると聞いた」
タクミは無言で封筒を差し出す。
ダッカルはそれを受け取り、淡々と目を通していく。
「……ほう」
一枚目。
《彼は運に恵まれているようだが、それだけではない》
《戦場での判断力、胆力、異常な成長速度を確認》
二枚目。
《戦力として扱うなら、単独行動を許可すべき》
三枚目。
《彼が“知らずに”何かを引き寄せている可能性を否定できない》
ダッカルは小さく鼻で笑った。
「バーグめ……相変わらずだな」
紹介状を畳み、タクミを見る。
「君は…紙一重なんだろうな」
「……光栄、なんですかね」
タクミは苦笑する。
「ま、そんなとこさ」
ダッカルは笑いながら地図を広げると真面目な顔に戻り
「グランディナ山脈で異変が起きている」
指で示しながら、淡々と続けた。
「“王”の気配がする」
「フェンリル……」
リナが小さく呟く。
「名前を知っているのか」
ダッカルはわずかに目を細めた。
「だが、正体は不明だ。目撃証言すら断片的でな」
地図の一点を叩く。
「だから頼みたい。調査だ」
間を置かず、タクミは答えた。
「お引き受けします」
そのまま続ける。
「ただ、その前にすでに別の方から、山脈外縁部の調査と護衛の依頼を受けています」
ダッカルの視線がわずかに鋭くなる。
「同じ山を調べている方です。並行して進めても問題ありませんか? 情報が得られる可能性もあると思います」
数秒の沈黙。
やがてダッカルは短く頷いた。
「構わん。むしろ好都合だ」
「得られるものはすべて拾え。山は……情報が命を分ける」
「ありがとうございます。では、その形で進めます」
タクミは一礼した。
⸻
部屋を出た後。
(これで情報は揃ってきた……けど)
頭の中で整理する。
フェンリル。
山の異変。
セリオの調査。
(まだ、繋がってない)
だが――
「なあリナ」
「うん?」
「やっぱり、山だな」
リナは小さく笑った。
「最初から、そのつもりでしょ」
タクミも肩をすくめる。
(……引き寄せられてる、か)
バーグの言葉が、ふとよぎる。
それでも。
足は、迷いなく山へ向いていた。
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