第33話『静かな再評価』
決闘が終わっても、ギルド内はしばらく静まり返っていた。
誰もが言葉を失い、
床に散らばった金色の装備と、膝をついた男を交互に見ている。
――勝敗は、あまりにも明白だった。
「……し、勝者」
受付嬢が喉を鳴らしながら、どうにか声を絞り出す。
「模擬決闘の勝者は……タクミさん、です」
その宣言で、ようやく空気が動いた。
「……今の、見たか?」
「武器……一瞬で……」
「いや、あれ……切ったってレベルじゃないだろ……」
囁き声が、波紋のように広がっていく。
タクミは短剣を鞘に収め、小さく息を吐いた。
(やりすぎたな……完全に)
ふと視線を感じて顔を上げる。
先ほどまで無関心だった冒険者たちが、揃ってこちらを見ていた。
軽い好奇心ではない。
測るような目。
距離を取る目。
そして――明確に敵意の消えた目。
「……Aランクってのは」
年配の冒険者がぽつりと呟く。
「伊達じゃねぇ、ってことか」
その言葉に、誰も反論しなかった。
⸻
「タ、タクミさん……」
受付嬢が、どこか緊張した様子で声をかけてくる。
「はい?」
「こちら、先ほどの件ですが……」
差し出されたのは、決闘記録用の書類。
「正式に“力量確認”として処理させていただきます」
「記録上は……“圧勝”という形になります」
「圧勝……?」
思わず聞き返す。
「はい」
受付嬢は少し困ったように笑った。
「ギルド規定上、あれは……そうなります」
(……手加減してたつもりなんだけどな)
口には出さない。
だがその認識こそが、周囲とのズレだということに、タクミはまだ気づいていなかった。
⸻
「なぁ、あんた」
少し離れた位置から、別の冒険者が声をかけてくる。
「本当に……ゴブリンキングを倒したのか?」
「え?」
一瞬だけ考えて、
「……結果的には、ですかね」
「……だろうな」
男は小さく笑った。
「今の見て、疑うやつはいねぇよ」
その一言をきっかけに、ギルド内の空気がはっきりと変わる。
無闇に近づかない。
だが、無視もしない。
見下さない。
そして――敵に回したくない。
――“強者への距離感”。
リナは、その様子を少し後ろから見ていた。
(……やっぱり)
(実戦だと、ここまで違うんだ)
訓練では見せなかった鋭さ。
抑えてなお滲み出る、異質な強さ。
(タクミは……)
(もう、“普通の冒険者”じゃない)
⸻
「……タクミさん」
受付嬢が、声を潜めて続ける。
「もしよろしければ……高難度依頼を優先的にご案内できますが……」
周囲の冒険者たちが、一斉に意識を向ける。
だが――
「いえ」
タクミはあっさりと首を振った。
「しばらくは街の様子を知りたいだけなので」
「普通の依頼で大丈夫です」
その返答に、何人かが息を呑む。
(この実力で、“普通”を選ぶのか……?)
それは謙遜ではなく、事実としてそう言っているように聞こえた。
⸻
ギルドを出た後。
リナが小さく息を吐く。
「……完全に見る目変わったね」
「そうか?」
「そうだよ」
横目でタクミを見る。
「もう誰も、“運だけのAランク”なんて言わない」
タクミは少しだけ考えてから、肩をすくめた。
「別にどう見られてもいいさ」
「俺は俺のやることやるだけだし」
その背中を見ながら、リナは確信する。
(……この人)
(“世界の真価”に近づくの、多分――自然に、なんだよね)
⸻
山の街〈バルゼ〉。
この日を境に、冒険者たちの間で一つの認識が生まれ始めていた。
――あのAランクには、関わり方を間違えるな。
それは、畏敬に近い警戒だった。
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