第31話『山の街バルゼ』
翌朝。
宿屋で簡単な朝食を済ませ、日課となっている軽い訓練を終えた二人は街へと出た。
「“世界の真価”に関する情報は……多分、ギルドマスターが知ってるかどうかってところだね」
リナがそう言う。
「とりあえずギルドだな」
「うん、行こう」
二人は並んで、街の中心にある冒険者ギルドへ向かった。
⸻
扉を開けた瞬間、室内の視線が一斉に集まる。
だが、それもほんの一瞬だった。
「……見慣れない顔だな」
「新人か?」
そんな空気が流れたかと思えば、すぐに関心はそれぞれの酒や依頼書へと戻っていく。
「セントラルより賑わってるな」
タクミが小声で言う。
「バーグさんも言ってたでしょ。ここは“山に挑む拠点”だって」
リナは周囲を見渡す。
「冒険者の数も多いし、各地から人が集まる場所。私たちみたいなのが来ても珍しくないのかもね」
「なるほどな」
二人はそのまま受付へ向かった。
⸻
「いらっしゃいませ。見慣れない顔ですね。冒険者登録はお済みでしょうか?」
受付嬢が丁寧に対応する。
「はい。昨日セントラルから来たところです」
タクミは軽く頭を下げた。
「しばらくバルゼで活動する予定なので、二人で長期間泊まれる宿の斡旋をお願いしたいのと……こちら、セントラルのギルドマスターからの紹介状です」
封書を差し出す。
「バルゼのギルドマスターさんはいらっしゃいますか?」
受付嬢は紹介状に目を通し、少し申し訳なさそうに答えた。
「宿のご案内は可能です。ただ……ギルドマスターは現在不在でして」
「不在ですか?」
「はい。最近グランディナ山脈の様子がおかしいとのことで、ご自身で調査に向かわれています。戻りは数日後になるかと……」
「そうですか。分かりました」
タクミは頷いた。
「では宿はこちらでお願いします。俺はタクミ、こっちはリナです」
そして、一瞬だけ間を置く。
「一応、Aランク冒険者です。滞在中は依頼でお世話になると思います。よろしくお願いします」
――その瞬間。
「……おい」
「今、Aランクって言ったか?」
「セントラルから来たって……」
ざわ、と空気が揺れた。
「ゴブリンキング倒してAランクになったって噂の……」
「まさか、あいつか?」
(……思ったより反応でかいな)
内心で軽くため息をつく。
その横で――
「Aランクっ!?」
受付嬢がぱっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます! 今バルゼにはBランクまでの冒険者しかいなくて、Aランク以上の方はギルドマスターが調査に同行されていて……本当に助かります!」
その言葉にかぶせるように、荒い声が響いた。
「おい!」
振り返る。
金ピカの武器と防具をこれでもかと身につけた、背丈二メートル近い男。
その後ろには、同じような装備の男が二人控えている。
「そんな奴らに頼らなくても、俺たちがいるだろ?」
(来たな……面倒なの)
タクミは内心でぼやきつつ、愛想よく笑った。
「ですよね。俺たち、たまたま運良くAランクになれただけで、実力はまだまだです」
軽く頭を下げる。
「皆さんに頼ることもあると思います。その時はよろしくお願いします。――じゃあ、失礼します」
「ハハハ!」
男が大きく笑う。
「ほら見ろ。こんなやつが実力でAランクなわけねぇ」
「どうせ運が良かっただけだろ?」
(……まあ、“運”はいいんだけどな)
心の中で苦笑した、その時。
「ちょっと」
リナが一歩前に出た。
「たまたまでAランクになれるわけないでしょ」
「セントラルのギルドマスターを馬鹿にしてるの?」
「あ、おいリナ――」
男がギロリと睨む。
「あぁ?」
「さっきから聞いてたけど」
リナは一切ひるまず続ける。
「Aランクになれない人のやっかみにしか聞こえないわ」
「本当に死線をくぐってきた冒険者は、そんなふうに他人に噛みついたりしないものよ」
――静寂。
ギルド内の空気が、一瞬で凍りつく。
そして次の瞬間。
「おい、てめぇら……」
男の顔がみるみる赤くなる。
「決闘だ! ぶっ殺してやる!」
(あー……やっちゃった)
タクミは小さく天井を仰いだ。
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