第29話『真価への道』
街を出てしばらく。
草原地帯を進む中、タクミはふと隣を歩くリナに目を向けた。
「なあ、それ……」
視線の先。
リナの背には、これまで見たことのない武器――弓があった。
リナはちらりとこちらを見て、軽く笑う。
「ああ、これ?」
肩をすくめる。
「街を出るから持ってきたの。私、弓も得意なのよ」
「そうなのか」
少し意外そうに返すタクミに、リナはくすっと笑った。
「近接ばっかりやってたからね。見せる機会なかっただけ」
そして前を向く。
「ま、そのうち分かるって」
⸻
その“機会”は、すぐに訪れた。
高原の風が吹き抜ける丘。
そこで、二人は魔物の群れに遭遇する。
空を旋回する影。
地を揺らして迫る重い足音。
――ウィンドホーク。
音速に近い突撃を繰り出す空の捕食者。
――シャードリザード。
全身が鉱石のように硬質化したトカゲ型魔物。
「タクミ、来るよ!」
鋭い鳴き声とともに、ウィンドホークが急降下する。
同時に、地上ではシャードリザードが突進してきた。
「同時かよ……!」
タクミは〈シルヴァリオン〉を抜く。
その横で、リナはすでに弓を構えていた。
「空は任せて」
弦を引き絞る。
その動きに、一切の無駄がない。
そして――
「早速、見せてあげる」
放たれた矢が風を裂く。
一羽目、翼を射抜かれ体勢を崩す。
二羽目、喉を貫かれそのまま墜落。
間髪入れず、次の矢。
三羽目も、逃げる間もなく撃ち落とされた。
「……すげえな」
思わず漏れる。
その間にも、地上の脅威は迫っていた。
シャードリザードが牙を剥き、タクミへ突っ込む。
「来い!」
一歩踏み込み、横へ滑る。
側面に回り込み、脇腹へ突き――
弾かれ…ない。
「っ……!」
刃が通らないことを予想してたタクミは驚きを隠せない。
(だいぶ硬そうだが――シルヴァリアンすごいな)
距離を取り、2匹目へとすぐに踏み込む。
シルヴァリオンが低く脈動した。
狙いは……顎の下――鱗の隙間。
踏み込みと同時に、斜めに一閃。
刃が滑り込む。
「――ギァァッ!」
確かな手応え。
そのまま深く抉る。
巨体が崩れ落ち、動きを止めた。
⸻
戦いは、終わった。
風が吹き抜ける。
大量の羽根と砕けた鉱石片が、地面に散っていた。
「……どう?」
弓を下ろしながら、リナが少し得意げに言う。
「いや……普通に強すぎだろ」
タクミは苦笑した。
リナは満足そうに笑う。
少しの静寂。
タクミは、ふと口を開いた。
「リナ」
「ん?」
「俺……隠してたことがある」
リナの表情が変わる。
タクミはまっすぐ見て続けた。
「俺、この世界の人間じゃない」
「……え?」
「別の世界から来た」
風の音だけが流れる。
「それに――」
タクミは自分の手を見る。
「俺には、普通の冒険者にはない力がある」
「俺にしか見えないLUCKっていうステータスと、インベントリっていう物をしまえる力」
リナは何も言わない。
ただ、じっと見ている。
沈黙。
「……そっか」
やがて、リナが口を開いた。
少しだけ寂しそうに。
「ずっと、言わなかったんだ」
タクミは頷く。
「……怖かった」
正直に言う。
「知られたら、距離置かれるかもって思ってた」
少しの間。
リナはタクミを見て――
ふっと息を抜いた。
「バカね」
「え?」
「そんなので嫌うわけないじゃん」
肩をすくめる。
「今まで一緒に戦ってきたの、誰だと思ってんの」
その一言で、胸の奥が軽くなる。
リナは空を見上げた。
「タクミ」
「ん?」
「私さ、タクミの言う“真価”」
少し笑う。
「ちゃんとこの目で見たい」
視線を戻す。
「だから、もう隠し事なしね」
タクミは頷く。
「……ああ」
少しだけ笑う。
「ありがとう、リナ」
⸻
風が草原を揺らす。
二人は並んで歩き出した。
北へ――〈バルゼ〉へ。
そして、〈グランディナの山脈〉へ。
その先にある“真価”へと、まっすぐに。
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