第28話『共に歩む道』
東の空が白み始め、街〈セントラル〉の屋根瓦を朝日が赤く染めていく。
冒険者の街の喧噪も、この時間だけは穏やかだった。
石畳の道を踏みしめながら、タクミは静かに北の街門へと歩いていく。
肩には旅の荷。
腰には短剣〈シルヴァリオン〉。
一歩進むごとに、胸の奥で鼓動が早くなる。
(……ここからが、本当の始まりだ)
昨日、バーグに言われた言葉がよぎる。
――「絶対死ぬなよ」
短く、重い言葉。
それを胸に刻みながら、タクミは門を見据えた。
「タクミ!」
背後から声が飛ぶ。
振り返ると、朝靄の街路を駆けてくる人影。
栗色の髪を揺らし、息を切らしている――リナだった。
「リナ……?」
思わず名前が漏れる。
リナはタクミの前で足を止めると、しばらく俯いたまま動かなかった。
タクミは何も言わず、ただ待つ。
やがて。
リナは顔を上げた。
まっすぐに、タクミを見る。
「タクミ。私……」
その瞳は揺れている。
でも、その奥にあるのは迷いじゃない。
はっきりとした意志だった。
「私、タクミと一緒に行きたい」
一歩、踏み出す。
「守るためでも、導くためでもない」
「ただ、隣にいたい」
少しだけ息を吸って――言い切る。
「一緒に歩いていきたい」
⸻
静かな朝。
その言葉だけが、まっすぐに届いた。
言い終えたあと。
リナの肩が、わずかに震えている。
どれだけ勇気を振り絞ったのか、伝わってくる。
タクミは、ゆっくり息を吸った。
そして、頷く。
「……リナ」
一歩、距離を詰める。
「迷惑なんて思うわけない」
少しだけ苦笑する。
「むしろ……俺の方から言えなかっただけで」
目を逸らさずに続ける。
「一緒に来てほしいって、ずっと思ってた」
リナの瞳が、わずかに見開かれる。
次の瞬間――
ふっと、力が抜けたように微笑んだ。
「そっか」
短い言葉。
でも、それだけで十分だった。
朝日が街門を照らす。
二人の影が、長く伸びる。
タクミは拳を握る。
そして、しっかりと口にした。
「ありがとう、リナ」
一拍。
「これからも……よろしく」
リナは小さく頷く。
「うん」
二人は並んで歩き出す。
街門をくぐり――
北へと続く街道へ。
⸻
背後で、街の鐘が低く鳴った。
旅立ちを告げるように。
振り返ることはない。
二人の新しい道は、もう始まっていた。
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