第27話『リナの迷い』
※リナ視点です
夜。
昼間は冒険者たちで賑わっていた街も、夜更けには静まり返っていた。
リナは一人、宿のベッドに腰掛ける。
窓を開け放ち、夜風に身を晒した。
月明かりが白い頬を照らし、静かに髪を揺らす。
(……私、何したいんだろ)
ぽつりと、心の中で呟く。
タクミは強くなった。
あのステータスを見れば、それは一目で分かる。
でも、それだけじゃない。
思い出すのは、さっきの戦い。そして、あの目。
出会った頃のタクミは、どこか頼りなくて。
目の前のことに必死で、余裕なんてなかった。
だから、自然と「守らなきゃ」って思って隣にいた。
でも今は違う。
もう、自分で前を見て進める。
私がいなくても――きっと大丈夫。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
(じゃあ、私は……?)
守るため?
導くため?
それとも――
「……分かってる」
小さく、声に出す。
「私、ただタクミの隣にいたいだけだ」
言葉にした瞬間、胸の奥がすっと軽くなる。
でも同時に、不安も浮かぶ。
(そんな理由で……一緒に行っていいのかな)
答えは出た。
でも、踏み出す勇気がまだ足りない。
じっとしていられなくなって、リナは外套を羽織り、部屋を出た。
夜の街。
石畳に響くのは、自分の足音だけ。
人気のない路地を抜けて、広場へ出る。
冷たい風が頬を撫で、少しだけ頭が冴えていく。
そのとき、視界の端に人影が映った。
――タクミ。
広場の反対側。
月明かりの中で、静かに立っている。
手には短剣〈シルヴァリオン〉。
その刃を、じっと見つめていた。
リナは足を止める。
声をかけようとして――やめた。
今の自分じゃ、まだダメだと思った。
この気持ちを、ちゃんと伝えられない。
タクミはしばらくそうしていたが、やがて短剣を納め、静かに歩き出した。
迷いのない足取りだった。
その背中を、ただ見送る。
(もう決まってるんだ)
(タクミは、進むって)
リナは胸に手を当てる。
(私は……守りたいんじゃない)
(導きたいわけでもない)
一歩、前に出る。
(ただ――)
顔を上げると、月が静かに光っていた。
「タクミと、一緒に行きたい」
小さな声は、夜風に溶けて消えていく。
それでも、胸の奥に灯った想いは消えなかった。
確かな光になって、そこにある。
リナはゆっくりと目を閉じる。
そして、静かに息を吐いた。
(明日、ちゃんと伝えよう)
もう迷わない。
夜は、静かに更けていった。
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