第26話『バルゼへの道標』
タクミの言葉を聞いて。
リナはしばらく黙っていた。
そして――小さく息を吐く。
「……分かった」
顔を上げる。
「で、どこ行くか決まってるの?」
「いや、まだ」
タクミは首を振る。
「この世界のこと、ちゃんと分かってないし」
「だよね」
リナは少し考えてから言った。
「じゃあ一回ギルド戻ろ」
「ギルド?」
「うん。街出るならバーグさんに一応言っといた方がいいし」
少し笑う。
「あと、あの人めちゃくちゃ物知りだから。行き先のヒントくらいくれると思う」
「なるほど」
タクミは頷いた。
「じゃあ、行くか」
⸻
二人は街へ戻り――
そのまま冒険者ギルドへ向かった。
重厚な扉を押し開けると、昼下がりの喧騒が広がる。
その奥。
カウンターで書類を見ていたバーグが顔を上げた。
「おう、タクミにリナ。戻ったか」
「うん」
タクミは一歩前に出る。
「バーグさん、ちょっといいですか?」
「なんだ」
一拍。
タクミはまっすぐに言った。
「俺、この街出ようかと思うんです」
一瞬。
空気が止まった。
バーグはゆっくりと椅子に深く腰掛け直す。
そして、タクミを見据えた。
「……だろうな」
「え?」
「そんな顔してると思った」
低く、落ち着いた声。
「“先に進む奴の目”だ」
リナが驚いた顔をする。
だが、バーグは構わず続ける。
「前に言ってたな。“世界の真価を知りたい”って」
「……ああ」
「なら止めねぇ」
短く言い切る。
「で、行き先は?」
「まだ決めてない」
「なら教えてやる」
バーグは指を机にトン、と鳴らした。
「この前も話したが、世界の大きな領域は四つだ。“森”“山”“海”“空”」
タクミの目がわずかに動く。
「森はもう踏み込んだな」
「ああ」
「残りは山、海、空だが――」
少し間を置く。
「“空”はやめとけ。何のことだか皆目見当もつかん」
「……そうですよね」
2人は軽く笑う。
「で、現実的なのは“山”か“海”だ」
地図を指でなぞる。
「この街〈セントラル〉から北」
「〈グランディナ山脈〉」
「その麓に〈バルゼ〉って街がある」
「バルゼ……」
タクミが小さく繰り返す。
「山に挑む冒険者の拠点だ。強い奴も多いし、情報も集まる」
「……いいですね」
「だろ?」
バーグはニヤリと笑う。
「まずはそこ行け」
「あと“海”な」
「はい」
「南の港町〈レインベル〉。多分そこに何かある」
「多分って」
「勘だ」
「勘って…」
「でも当たるぞ、俺の勘は」
タクミは少し考え――
頷いた。
「分かりました。まずはバルゼに行きます」
「いい判断だ」
バーグは立ち上がる。
そしてタクミの肩を叩いた。
「そうだ、バルゼのギルドに紹介状書いといてやる」
「いいんですか?」
「俺の名前出せば、向こうのマスターも無下にはしねぇよ」
ニヤリと笑う。
「ちょっとは楽できる」
「助かります」
そして――
バーグは少しだけ真顔になった。
「タクミ」
「ん?」
「約束しろ」
「何?」
一拍。
低い声。
「絶対死ぬな」
タクミは、迷わなかった。
「死にません」
はっきりと言い切る。
バーグは満足そうに笑った。
「よし、行ってこい」
ギルドを出たあと。
二人はそのまま、ヴォルドの工房へ向かった。
⸻
炉の熱気。
赤く揺れる炎。
その前で、ヴォルドがハンマーを振るっていた。
「よう、タクミ」
振り向かずに言う。
「シルヴァリオン、どうだった」
タクミは迷わず答える。
「最高でした」
ヴォルドの手が止まる。
「軽すぎて、持ってる感じしないのに」
「……」
「何でも切れます。疲れもしない」
タクミは一歩踏み出す。
「間違いなく、最高の武器です」
沈黙のあと。
ヴォルドは、ニヤッと笑った。
「そうか」
短く、それだけ。
「で?」
ハンマーを肩に担ぐ。
「用件はそんだけじゃねぇだろ」
「うん」
タクミは頷く。
「俺、街を出ます」
「ほう」
「北のバルゼに行くんです」
ヴォルドは腕を組む。
そして、楽しそうに笑った。
「いいじゃねぇか」
「グランディナ山脈か……あそこは甘くねぇぞ」
「分かってます」
「中途半端な武器じゃ死ぬ」
一歩近づく。
「だが――」
タクミの腰の短剣を見る。
「そいつなら話は別だ」
「シルヴァリオンはな」
低く言う。
「持ち主の力を“引き出す”武器だ」
「……」
「どこまで行けるかは、お前次第だ」
タクミは短剣に手を添える。
確かな鼓動。
深く、頭を下げた。
「……必ず証明します」
ヴォルドは何も言わない。
ただ――
満足そうに笑っていた。
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