第25話『異常な数値』
街へ戻る道すがら。
ふと、リナが思い出したように言った。
「タクミ、ステータス見せて」
「え? ああ、いいよ」
少しだけ戸惑いながらも、タクミはステータスを開く。
⸻
――Lv.30
HP:445
MP:436
ATK:436
DEF:436
SPD:436
LUCK:999
スキル : ラッキーステップ
ラッキーストライク
⸻
リナは、それを見た瞬間――固まった。
「……は?」
「どうした?」
タクミが覗き込むと、リナはゆっくりと息を吐いた。
「……まず前提から話すね」
指を一本立てる。
「レベル1の時点で、ステータスがだいたい50以上あれば“冒険者になれるかも”ってライン」
「へぇ」
「で、75〜100あれば将来有望。100超えてたら“天才”って呼ばれるレベル」
「……」
タクミは少し苦笑する。
「俺、全部1だったけど」
「うん、それは普通に死ぬやつ」
即答だった。
「一般人でも30〜50はあるからね。正直、よく生きてたなってレベル」
「……だよな」
リナは少し視線を細める。
「でもさ」
「ゴブリンロードに遭遇して、逃げ切ったじゃん」
(……あの時か)
脳裏に蘇る。
あの圧倒的な恐怖。
(あの時は……必死だったな)
「運が良すぎたんだと思う」
タクミはぽつりと呟く。
「でもさ」
リナが続ける。
「不思議だったんだよね」
「え?」
「なんか……放っておいたらすぐ死にそうって思った」
「ひどくない?」
「いや、褒めてる」
「褒めてるのかそれ……」
思わず苦笑する。
「でも実際そうだったでしょ?」
「……否定できない」
「でしょ」
リナは小さく笑った。
その笑顔が、ふっと消える。
再び、真剣な目。
「ここからが本題」
ステータスを指差す。
「普通、レベル30の冒険者ってね」
「うん」
「どのステータスも100前後。高くても200いくかどうか」
「……そんなもんなんだ」
「そう。で、なんでかっていうと」
少し間を置く。
「レベルアップで上がる数値って、基本1〜3くらいなの」
「……」
「だから、どんなに強い人でも――」
「レベル70〜90で、ようやく300ちょい」
………
沈黙の時間が流れる。
「……え?」
タクミが、ゆっくりと声を出す。
リナははっきりと言い切った。
「タクミ、あなたはおかしい」
「だよな……」
「おかしいどころじゃない」
指でステータスをなぞる。
「全部400超えって何?」
「……」
「普通の冒険者の、軽く2倍以上あるからね。バランスもいいし、無駄がない素晴らしいステータスね」
(バランスが良い?そもそもこのステータスを見てLUCKの話が出ないのはおかしいな…)
「なあリナ、このステータスって全部見えてるか?」
「? 何言ってるの、全部見えてるけど」
(……いや、違うな、リナにもLUCKは見えてないんだ)
「そ、そうだよな。変なこと言った、気にしないでくれ」
「?」
タクミはステータスを改めて見つめ直す。
(……そうか)
思い出す。
(俺、レベル上がるたびに……)
「実は俺1レベル上がるごとに、全部15上がってた」
「は?」
「普通の5倍以上なんだな」
「いや、バグでしょそれ」
「バグって言うな」
⸻
少しだけ、空気が緩む。
「はぁ…」
リナが腕を組む。
「それなら納得はできる」
「さっきの動き?」
「うん。あれはもうステータス通りって感じ」
「……」
タクミは少し考える。
「でもさ」
「ん?」
「それならもっと前から動けても良かった気がするんだよな」
リナが頷く。
「それは私も思ってた」
「だよな」
少し間を置く。
「多分だけど――」
タクミは言葉を選ぶ。
「俺、そもそも戦ったことなかったんだよ」
「……ああ」
「体の使い方も分かってなかった」
拳を軽く握る。
「でもリナが教えてくれたから」
「……」
「ステータスに、体が追いついたんだと思う」
リナは少しだけ目を細めた。
「なるほどね」
小さく頷く。
「それであの時一気にレベル上がったんだよな」
「ゴブリンキングのあとね。倒れそうになってたよね」
「そうそう。多分あれ、今思えばレベルじゃなくてステータスの急上昇のせいだと思う」
「……急激な変化に体が耐えきれなかったってこと?」
「そんな感じ」
「なるほどね……」
リナは納得したように息を吐いた。
タクミは、リナを見る。
真っ直ぐに。
「でもさ」
「ん?」
「ここまで来れたの、リナのおかげだと思ってる」
「……」
「修行してなかったら、多分あの力を使えてない」
拳を握る。
「本当にありがとう」
……一瞬の沈黙。
リナは、ふっと笑った。
「どういたしまして」
少し照れたように、視線を逸らす。
⸻
二人は同時に――
タクミの腰へ視線を落とした。
シルヴァリオン。
鞘の奥で、わずかに脈動している。
「……その短剣」
リナが呟く。
「タクミと相性良すぎでしょ」
「やっぱり?」
「うん。ステータスを無駄なく引き出してる感じ」
「……」
タクミは静かに柄に触れる。
確かな感触。
(これが、今の俺の力)
そして。
ゆっくりと顔を上げた。
「リナ」
「ん?」
一拍。
迷いはなかった。
「俺、街を出るよ」
⸻
風が吹く。
二人の間を、静かに通り抜けていった。
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