第22話『炎に宿る意志』
※ヴォルド視点です
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工房の奥深く――
巨大な炉が、生き物のようにうねりながら赤々と燃えていた。
ゴォ……ゴォォ……
低く響く音が、空気を震わせる。
ヴォルドは額の汗を拭い、深く息を吐いた。
(初めてだ……)
視線の先。
そこにあるのは――
黒曜石のような光沢を持つ、異質な結晶。
内部を、赤い紋様が脈打っている。
まるで血管のように。
(ゴブリンキングの魔核……)
(こんなもんを、叩く日が来るとはな……)
口元が歪む。
(だが――)
「これをやらずに何が鍛冶師だ」
ハンマーを握る手に、力がこもる。
「――やるぞ」
魔核を炉へと放り込んだ。
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初日。
結果は――惨敗だった。
炉の温度を限界まで上げる。
鉄も、ミスリルも屈してきた熱。
だが――
魔核は、びくともしない。
赤い脈動だけが、ゆっくりと揺れている。
「……舐めやがって」
歯を食いしばる。
そのまま打ち込む。
――バチィィン!!
「ぐっ……!」
火花が弾ける。
だがそれは、普通の火花ではない。
赤黒い、禍々しい閃光。
ハンマーが弾かれ、腕が痺れる。
「駄目だ……!」
吐き捨てる。
「鉄やミスリルと同じやり方じゃ……通らねぇ!」
拳を握りしめる。
(タクミの野郎に大口叩いたってのに……)
(このままじゃ、笑えねぇぞ……!)
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夜。
工房の灯は消えない。
ヴォルドは一人、炉の前に座り込んでいた。
じっと、魔核を見つめる。
ゴウン……ゴウン……
赤い脈動。
規則的ではない。
だが、確かに“意志”を感じる。
(……なんだ、こいつは)
(ただの素材じゃねぇ)
(まるで――)
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二日目。
ヴォルドは魔核に手をかざした。
熱ではない。
“何か”が伝わってくる。
ゴウン……ゴウン……
「……心臓みてぇだな」
ぽつりと呟く。
その瞬間――
ヴォルドの目が細められた。
(……合わせろってか?)
ハンマーを握る。
「いいだろう……乗ってやる」
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ゴウン……
――カン!
ゴウン……
――カン!
脈動に合わせて、叩く。
すると――
わずかに、変化が生まれた。
「……動いた?」
確かに、形が歪む。
これまで微動だにしなかった魔核が。
「ハハ……!」
口元が歪む。
「そういうことかよ……!」
目が、爛々と輝く。
(こいつは“叩く”もんじゃねぇ)
(“応えさせる”もんだ……!)
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三日目、四日目。
工房に響く音が変わる。
カン!ではない。
“対話”の音だ。
ゴウン……カン
ゴウン……カン
ヴォルドは食事も睡眠も削る。
ただ、打つ。
ただ、応じる。
(俺は鍛冶師だ)
(鉄を叩くだけの人形じゃねぇ)
(命を預けるもんを作る――それが仕事だ!)
腕が裂ける。
血が滲む。
だが止まらない。
「なぁ……」
息を吐く。
「お前、どんな形になりてぇんだ?」
魔核は、応えるように脈打った。
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五日目。
変化は明確だった。
魔核はすでに短剣の形を取り始めている。
打ち始めは黒が基調だった外殻が、今では深い緑が大部分を占めている。
まるで、闇を感じる森の奥のような色。
その中心を――
赤い脈動が走る。
「……なるほどな」
ヴォルドは目を細めた。
(“森の王”ってわけか)
(性質が表に出てきやがった……!)
手応えがあった。
だが――
次の瞬間。
ゴォォォォォォ!!
炉が暴れた。
炎が噴き上がる。
「くそっ……暴れやがる!」
工房が赤黒く染まる。
だがヴォルドは退かない。
(ここで引くかよ……!)
ハンマーを振りかぶる。
「来い!!」
――カァァァァァァン!!
渾身の一撃。
その瞬間――
赤黒い光が、一気に収束した。
短剣が、低く唸る。
そして――静まった。
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七日目の朝。
ヴォルドは、荒い呼吸を吐いた。
「……できた」
金床の上。
そこにあったのは――
一振りの短剣。
深い緑と黒が混じり合った刃。
中心には、赤い脈動。
まるで生きているかのように、かすかに鼓動している。
柄には、精緻な銀の彫刻。
荒々しさと、美しさを兼ね備えていた。
「……はは」
力が抜ける。
「やりやがったな、俺……」
ゆっくりと持ち上げる。
重み。
熱。
そして――確かな“存在感”。
「最高だ……」
心からの笑みが浮かぶ。
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朝日が差し込む。
傷だらけの腕が、光に照らされる。
ヴォルドは短剣を見つめながら、静かに呟いた。
「待ってろよ、坊主」
口元が、力強く歪む。
「とんでもねぇ相棒、用意してやったぞ」
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