第21話『迷信と伝承』
ヴォルド工房を出たあと。
タクミは人気の少ない通りを、あてもなく歩いていた。
(……俺は、どうすればいい)
ゴブリンキングを討った。
だが――
その先が、まだ見えない。
武器が仕上がるまでの一週間。
身体を鍛えることはできる。
けれど、心が落ち着かない。
何かが、足りない。
⸻
ふと、意識を向ける。
インベントリが開く。
その中で――
ひとつの石に、視線が止まった。
「……森の王の記憶」
あの戦いのあと。
遺骸の近くに、ひっそりと落ちていたもの。
(結局、何なのか分からないまま……)
ずっと持ち歩いていたが――
(……そういえば、報告していなかったな)
ギルドマスターなら、何か知っているかもしれない。
⸻
再び、ギルドへ。
応接室。
机の向こうに座る、ギルドマスター・バーグ。
「なんだ」
一瞥する。
「魔核を売る気になったのか?」
「いえ……別件です」
タクミは小さく首を振る。
インベントリから、そっと石を取り出した。
黒緑色の石。
バーグの眉が、わずかに動いた。
「……これは」
「ゴブリンキングを倒した時、近くに落ちていました」
「ほう……」
バーグは指先で転がす。
そのまま、じっと見つめた。
「名前は分かるか?」
「“森の王の記憶”と」
「――……!」
ほんの一瞬。
バーグの目が、はっきりと見開かれた。
⸻
「……そのゴブリンキングだが」
低く問う。
「何か、普通の魔物と違う点はなかったか?」
「違う点……」
タクミは視線を落とし、記憶を辿る。
(あの時……)
鮮明に蘇る。
「……ありました」
ゆっくりと答える。
「戦いの最中、人間の言葉を話していました」
「人間の言葉を?」
「はい」
頷く。
「理性的とは言えませんでしたが……会話は成立していました」
「リナも、ああいう魔物は初めてだと」
バーグは深く息を吐いた。
そして腕を組む。
「……やはり、そうか」
⸻
「こんな話がある」
ぽつりと、語り出す。
「森、山、海、空――」
「この世界には“四つの王”が存在する、と言われている」
タクミは黙って聞く。
「それらは高い知性を持ち、人語を解する」
「そして――」
バーグは石を見つめる。
「自らの“記憶”を宿した石を遺す」
「……それが」
タクミが呟く。
「この“森の王の記憶”」
「おそらくな」
バーグは頷く。
「だが、これは長らく“伝承”に過ぎなかった」
「実際に見た者はいないとされてきた」
「老人どもの語る――おとぎ話だ」
「……その記憶を、四つ集めたら?」
タクミが問う。
バーグはわずかに目を細めた。
「“世界の真価に触れられる”」
静かに答える。
「そう言われている」
「だが――」
肩をすくめる。
「何を意味するのかは、誰にも分からん」
⸻
沈黙。
タクミは石を見つめる。
一見ただのきれいな石。
もちろんそこらへんに落ちているようなものではないので、何かしらの特別感はタクミも感じるが、それ以上のことはわからない。
(……なんで、俺なんだ)
バーグがぽつりと漏らす。
「なぜお前がそれを手にしたのか……分からん」
一拍。
「……いや」
わずかに口元を歪める。
「必然、かもしれんな」
(必然……)
胸の奥で、何かが引っかかる。
(……運、か?)
自分の異常な“LUCK”。
それと、繋がっているのか――
⸻
バーグが、薄く笑う。
「もし本気で集めるつもりなら――」
低く告げる。
「間違いなく、いばらの道だ」
「森の王ですら、あのゴブリンキングだ」
「他の王も……同等、あるいはそれ以上だろう」
「……」
タクミは拳を握る。
少しの沈黙のあと――
静かに口を開いた。
「……確かめてみようと思います」
バーグが眉を動かす。
「何をだ」
タクミは顔を上げる。
迷いはなかった。
「世界の真価を」
一拍。
「……自分の目で、確かめてみます」
⸻
――『真価はあなた次第』
⸻
(……まさかな)
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