第88章 森の決戦
島の奥深く、森の闇が二人を覆い隠していた。
竜司は呼吸を整え、周囲を見渡す。
足跡、枝の折れた痕、そして微かに漂う銃火の匂い──すべてが追手の接近を告げていた。
「竜司……あの男たち、まだ来る……」
沙希の声が震えている。
「わかってる。でもここで立ち止まるわけにはいかない」
竜司はレンチを握り締め、慎重に前進した。
森の小道を抜けると、開けた岩場に出る。
足元には小川が流れ、水音が微かに響く。
追手の黒い影が、赤外線ライトに照らされ、岩場の奥から迫ってきた。
竜司は瞬時に判断する。
「ここだ……仕掛けろ」
岩場の陰に、落ちていた木の枝や石、旧い金属片を配置する。
罠は即席だが、追手の動きを遅らせるには十分だった。
「来るぞ!」
竜司の声と同時に、最初の男が罠に引っかかる。
小石が転がり、枝が折れる音が響き、追手は混乱する。
竜司はレンチを振り、近づく敵を一撃で制する。
沙希も小枝を投げ、足元を妨害する。
森の中での戦いは、光も影も入り混じり、互いの息遣いが鋭く感じられた。
銃声、叫び声、枝が折れる音──すべてが戦場の証だ。
だが、追手の数は多い。
竜司は沙希の手を取り、岩場を駆け抜ける。
「このままじゃ持たない……!」
沙希も必死に走るが、足元のぬかるみで滑りそうになる。
竜司は咄嗟に彼女を抱え上げ、再び前進した。
岩場の先に、古びた洞窟が見えた。
「ここだ……隠れるぞ」
二人は息を切らしながら洞窟の奥へと滑り込む。
洞窟の中は暗く、湿った空気が肌を刺す。
竜司は息を整えながら、沙希に囁く。
「ここで休む間に、東条の手下を引き離す。奴らはこの洞窟には入れない」
沙希は頷き、震える手で竜司の肩を握る。
「竜司……エリカさんの犠牲、無駄にしないで……」
竜司の胸に、再び決意が燃え上がる。
外で足音が減り、静寂が戻る。
しかしその静けさは欺瞞だ。
東条は新たな手を打っていた。
無線から、冷たい声が響いた。
《竜司……逃げても無駄だ。次は島全体を制圧する》
竜司は唇を噛みしめ、洞窟の壁を見つめる。
「奴が直接来る……だが、ここで戦うしかない」
洞窟の中、二人はコンテナを抱え、暗闇に身を潜める。
その時、竜司の耳に微かな機械音が届いた。
無線機──東条の新型ドローンだ。
赤外線で洞窟内を探索している。
「沙希……仕掛けるぞ」
竜司は洞窟内の石を積み上げ、簡易的なバリケードを作る。
ドローンのセンサーを反射させ、光学迷彩で位置を隠す作戦だ。
沙希も手伝いながら、コンテナを安全な位置に移動させる。
そして、ドローンが洞窟の入り口に到達した瞬間、バリケードの下から仕掛けた小型爆発物が炸裂する。
衝撃波と火花が洞窟の入口を覆い、ドローンは機能停止。
赤い光が闇の中で消える。
竜司は深く息をつき、沙希に微笑む。
「今のうちに、この島を安全地帯に変える」
沙希も小さく笑った。
「竜司……私、信じてる……」
しかし、竜司の胸には不安もあった。
東条の本体はまだ存在する。
そして、カストリの全貌もまだ見えていない──次に訪れるのは、もっと大きな戦いだった。
洞窟の闇の中、二人はお互いの手を握り、次の一手を静かに決意する。




